アンドロメダ座の聖闘士になって 日本に帰った瞬は、そこで懐かしい仲間たちに再会した。
そうして始まった、アテナの聖闘士としての日々――戦いの日々。
その最初の敵が 兄と兄に従う者たちだったことは、瞬には つらく苦しいことだったが、まもなく兄とアテナの聖闘士たちの不和は消えうせ、兄もまたアテナの聖闘士の一人になった。
アテナの聖闘士の敵が アテナと地上に仇なす邪悪の徒だけになれば、戦い自体は悲しいことだったが、瞬が その戦いの中で 後悔や良心の呵責を感じることはなかった。
仲間たちと、命がけの戦いを共に戦い、守り守られ、支え合い、日々を生きていく。
その中で、仲間との信頼、絆は深まり、強まっていく。
戦いは つらく苦しく、命を落としそうになったことも一度や二度のことではなかったが、そのたび、瞬には 仲間たちの手が差しのべられた。
そうして更に強く深くなる仲間たちとの信頼と絆。
仲間たちとの信頼と絆は、やがて 瞬にとって他の何ものにも替え難い大切なものになっていった。

そんな仲間たちとの戦いの日々の中で、ふと思い出すのである。
普段は 戦うことに夢中で、生き延びることに必死で、忘れていられるのに、戦場の空の色がアンドロメダ島の海の色に似ていたり、潮の香りを乗せた風に吹かれた時に、ふと。

自分は、自分の力でアテナの聖闘士になったのではない。
自分は 本当は彼等の仲間ではない。
彼等と共に同じ戦いを戦う権利も資格もない。
自分は仲間たちを騙して、彼等の中に紛れ込んでいる偽者の聖闘士なのだということを。
そして、その事実を思い出すたび、罪悪感が募ってくる。
自分を責めずにいられなくなるのだ。

そんな卑怯を行なってまで、自分は生き延びたかったのか。聖闘士になりたかったのか。
もちろん、生き延びたかった。
聖闘士になりたかった。
瞬の中には、罪悪感はあったが後悔はなかった。
生き延び、聖闘士にならなければ、かけがえのない仲間たちとの再会は成らなかった。
彼等と共に戦い、かけがえのない信頼と絆を培うこともできなかった。

戦いは、つらく、苦しく、悲しい。
だが、自分は、その つらさ、苦しさ、悲しさを仲間たちと耐えていくことができる。
戦いは、本当に つらく、苦しく、悲しいものだった。
だが、その戦いを仲間たちと共に戦えることは、瞬には幸福でしかなかったのである。
アンドロメダ島で死んでいたら、聖闘士になれなかったら、自分は幸福というものを永遠に知ることはなかっただろう。
ただの みじめな弱者敗者として、その生を終えていた。
後悔はない。
後悔はないのである。
自分は仲間たちを偽り、騙しているのだという罪悪感があるだけで。

為してしまった卑劣は もはや やり直すことはできない。
たとえ人魚と約束を交わした あの日に帰ることができても、自分は同じことを願うだろう。
仲間たちと共に戦い生きることのできない生も死も、自分には耐えられない。
だから――自分は、仲間のため、地上の平和のため、アテナのため、命をかけて戦うことで 罪を償うしかないのだと、瞬は思っていた。
そうして戦い続け、やがて力尽きて死んでいく時、この罪は完全に償われるのだ。
そう自分に言い聞かせて、瞬は、戦いの日々、仲間たちとの日々を生き続けていたのである。

いつか 自分は 仲間を守るため、地上の平和を守るために死ぬだろう。
その日 その時に向かって、自分はまっすぐに迷うことなく 自分の生を生きる。
自分に、他の生き方はない。
瞬は そうするつもりだったし、そうできると信じていた。
何の迷いもなかったのである。
アテナと海皇ポセイドンとの戦いが始まり、そうして 忘れもしない あの人魚に再会するまでは。






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