瞬が、次に兄との面接に連れてきたのは、これまた瞬より年上、3年生のヒルダだった。
こちらも、一輝とは“知らぬ仲ではない”人物である。
1年生の頃から フェンシング部の部長を務め、剣道部の一輝とは 毎回 熾烈な予算の奪い合いをしてきた相手。
優等生然とした外面を装いながら とんでもない二重人格者で、予算委員会に向おうとした一輝を、手下の男たちを使って妨害するという姑息な真似をしてくれたこともある。
カリスマ性があるのは事実で、常に複数の崇拝者を 周囲に はべらせている女生徒。
そのヒルダが、瞬を ぜひとも自分の取り巻きに加えたいと言って、瞬の兄との面接に挑んできたのだ。

もちろん、一輝は大反対した。
しかし、よほど瞬が気に入ったのか、ヒルダは一歩も引かない。
最終的に、瞬の取り巻き化計画をヒルダに断念させたのは、フェンシング部七星と呼ばれる、彼女の取り巻きたちの嘆願だった。
面接会場に乗り込んできたジークフリート以下 七名の取り巻きたちに、
「ヒルダ様に見捨てられてしまったら、我等は生きている甲斐がありません。我等はフェンシングを諦め、鉄道研究部に転部します」
と泣きつかれ、ヒルダは、瞬の取り巻き化計画を断念せざるを得なくなってしまったのである。
ジークフリートたちが転部しようとした先が、なぜ鉄道研究会なのか、それは 一輝にも瞬にも わからなかったのだが、ともかく そういうわけで、めでたくヒルダも不採用となったのだった。



ジュネ、ヒルダと女傑(むしろ怪物)が続いたことに懲りた一輝は、
「瞬。次のおまえの正式な お付き合いの候補は せめて、もう少し可愛げのある女らしい普通の子にしてくれ」
と、瞬に要望を出してみたのである。
「はい、そうします」
と素直に答えた瞬が、次に連れてくる相手が なぜパンドラなのか、一輝には まるで合点がいかなかったのである。

パンドラは、一輝が 高校在学中、グラード学園高校の番長の座を争った人物――要するに、21世紀に入る前に この地上から完全に絶滅したと思われていた“スケ番”なる稀少動物だった。
たとえ天地が引っくり返っても、瞬と正式な“お付き合い”など されては困る相手である。
一輝は、グラード学園高校とは宿命のライバル校・海皇高校のスケ番テティスとの決闘の場をセッティングしてやるという交換条件を提示して、なんとかパンドラに瞬から手を引いてもらうことに成功したのだった。



「兄さん、チェックが厳しいです」
連れてくる女性陣が ことごとく不合格になってしまうのに、瞬は さすがに落胆の気持ちを隠さなかった。
とはいえ、
「俺のチェックが厳しいのは、おまえに幸せになってほしいと思うからだ。おまえの幸せだけが、俺の望みなんだ」
と兄に言われれば、
「わかってます。兄さんから合格をもらうまで、僕は 誰とも正式な お付き合いはしません」
と答えて 素直に頷くのが、瞬という弟である。
瞬は、『もしかしたら兄さんは、僕が誰を連れてきても 鵜の目鷹の目で粗探しをして、NGを出すつもりなんじゃ?』などという疑いを抱いたりはしないのである。
人を疑うことを知らない素直な弟でよかったと、一輝は、安堵の胸を撫でおろしたのだった。






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