開催目的の是非はともかく、3000年の歴史を誇る 由緒正しい(代理)美人コンテスト。
まして、主催も審判も神だというのなら、彼等が参加者の性別を見誤ることは考えにくい。
男子の自分が そのコンテストの優勝者になることは まずないだろう。
そう考えて、瞬は、婚姻と家庭生活の守護神ヘラ主催の代理美人コンテストに参加することを承知したのである。
それでアンドロメダ座の聖闘士は アテナと氷河の命令に従ったことになるのだし、その結果がどうなっても、まさか その責任までを自分が負わされることはないだろう。
そう、瞬は思っていた。
のだが。

ギリシャの神々が、どれほど性的に奔放でリベラルで節操がないか。
ギリシャの神々の価値観や恋愛観がいかなるものであるか。
ゼウスは、トロイアの王子ガニュメデス誘拐の前科がある両刀使いであること。
それら 諸々のことを、瞬は その時すっかり失念していたのである。

代理美人コンテストへの参加を承知した途端、瞬の身体はオリュンポス山に運ばれた(ようだった)。
神々の住まいであるオリュンポスの神殿を、人間たちの目に さらすわけにはいかないという事情があったのか(ハーデスの依り代にしてアテナの聖闘士である瞬は ともかく、他の二人のコンテスト参加者は純然たる人間だったらしい)、代理美人コンテストは 全く視界のきかない雲の中で行なわれ、かつ その審判は一瞬で下った(らしかった)。

気が付くと瞬は 元の場所――某島国の城戸邸ラウンジ――に戻っていた。
そして、瞬は、微笑むアテナに、死の宣告をされたのである。
「おめでとう、瞬。神々の女王、婚姻と家庭生活の守護神ヘラ主催の第1000回美人コンテストの優勝者は あなたよ」
と。

「――ということは、一両日中に、氷河の許に刺客が送り込まれてくるわけか。結果が楽しみだ」
ぽかんとしている瞬に、その言葉通り 楽しそうに紫龍が告げる。
いったい紫龍は、瞬に対する氷河の愛を どの程度のものと思っているのか――信じているのか、いないのか。
まるで緊迫感のない、のんびりした その口調から 紫龍の真意を推し量ることは、瞬にはできなかった。






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