ともあれ、事情がわかれば、伊達に長く付き合ってきたわけではない5人は、早速 一致団結して かぐや姫帰郷計画の立案遂行に取り組み始めたのである。
俗に、3人寄れば 文殊の知恵と言う。
それが5人 集まっているのだ。
文殊菩薩どころか、如来の知恵も出ようというものである。

「5人揃って、かぐや姫に求婚するというのはどうだ。常に5人一緒なら、抜け駆けする者が出ないように牽制し合うだろうという考えが働いて、竹取爺も 姫の身辺警護の手を緩めるだろう」
と言い出したのは、あろうことか 瞬の兄だった。
斬新すぎる一輝の案に、星矢たちは仰天したのだが、確かにそれは いい手だった。
「都で名高い5人の公達が 揃って求婚となれば、かぐや姫の評判は ますます上がる。竹取の翁も、我等を邪険にはすまい。5人一緒なら、御簾越しでの対面くらいは許されるだろう。それで、姫との連絡は密に取れるようになる」
かぐや姫に求婚することになる公達たちは、一輝の案を実行することに同意した。

続いて。
「オオクニヌシのミコトがスセリ姫に求婚した時、姫の父親のスサノオのミコトが オオクニヌシに難題を出したように、かぐや姫から俺たちに難題を出させてみてはどうだろう。氷河には“蓬莱の玉の枝”、瞬には“仏の御石の鉢”、星矢には“燕の産んだ子安貝”、一輝には“火鼠の皮衣”、俺には“龍の首の珠”というように。その宝探しに奔走しているとなれば、俺たちの誰が都を留守にしても、それを奇異に思う者は出ない。俺たちは、いくらでも自由に動ける」
と提案してきたのは紫龍。
竹取の翁の屋敷から連れ出した かぐや姫を宋の船が出る港まで運ぶ手順、姫を乗せる船の手配、その船で姫の安全を確保するための策、宋に着いてからの宿、西方に向かう案内人の手配、その際の宿の手配等、準備しなければならないことは多くある。
それを一人でやっていたのでは、いつまで経っても 計画を実行に移すことはできないし、それ以前に計画を完成できない。
5人の自由を確保し、分業してそれらを行なうのは、効率の面で極めて有効だった。

それら すべての準備が整い、いよいよ かぐや姫を 竹取の翁の屋敷から連れ出す手順を決める段になって、『夜陰に紛れて こっそり連れ出すのでは、警備の誰かが かぐや姫誘拐の罪を着せられる心配があるし、そもそも それでは詰まらない』と言い出したのは お祭り好きの星矢だった。
「むしろ、かぐや姫を連れ出した犯人を明白にしといた方が、あらぬ疑いをかけられる奴も出なくていいだろ。誘拐劇は派手に ぶちあげようぜ。それこそ、月の世界から お迎えが来たことにするとかさ」
「月からの迎え? また妙な策を……。そんなことを、どうやって皆に信じさせるんだ」
かぐや姫の帰郷計画を 壮大かつ愉快な遊びとしか思っていないような星矢に、氷河は渋面を向けたのだが、星矢自身は大真面目だった。
「牛車で松明を燃やして、それを鏡で反射させて、辺りを昼間みたいに明るくするんだよ。そんで、瞬に天女の恰好でもさせれば、みんな、それを月からの お迎えだって信じるだろ。警備の兵たちは 俺たちで倒して、それは天女の魔法のせいだったことにする」

「僕が天女って……そんなの無理だよ」
尻込みする瞬を、
「おまえなら大丈夫だろう。大きな鏡を何枚も使って、天女が幾人もいるように見せればいい」
紫龍が力づける。
「僕が言っているのは、そういうことじゃなくて――」
それでも ためらう瞬を、
「一人の女人の人生がかかっているんだ。協力しろ」
と言って、一輝が説得。
「でも……」
その上、
「天女の姿をした瞬か。それは さぞかし美しいだろうな」
氷河までが、完全に乗り気。
瞬に拒否権は与えられず、かくして かぐや姫奪還計画の仕様は決定したのだった。






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