好きでもない女を妻に迎えるくらいなら、こんな美しい少年を眺めて気楽に暮らしているのもいいかもしれない――と、ペルセウスは考えるようになっていた。
祖母が見付けてきた女性を諾々と妻に迎えても、祖母は いずれ、自分が連れてきた女性に不満を抱き始めるだろう。
それで結局、王も王妃も王大后も不幸になるより、現状維持の方が よほどましなのではないか――と。
そんなペルセウスの考えを見透かしているのか、王大后カシオペアは、ペルセウスに気に入られているアンドロメダを不快に思っていることを隠そうともしなかった。

「おまえは、分をわきまえていて、控えめで、細かいところにも気がつく いい子なのに、何が気に入らないのか――」
アンドロメダを敵視しているようなカシオペアの態度に嘆息してから、ペルセウスは、
「あの人は、自分以外の人間は、それが誰でも、どんな人間でも 気に入らないんだろうが――」
と、自分の疑念に自分で答えを出した。

「僕はどこの馬の骨とも知れない人間です。そんな人間がペルセウス様の おそばにいることを、王大后様が ご不快に思われるのは 当然のことなのでは? 王太后様はペルセウス様の御身を案じていらっしゃるのでしょう」
「祖母が、自分以外の誰かを愛したことがあるとすれば、それは この国を捨てた娘のアンドロメダだけだろう。私は、出来の悪い代替品にすぎない」
「そんなことは……」
『ない』と断言することを、アンドロメダはしなかった。
確信の持てないことを言うべきではないと考えたのか、事実を知らない者が無責任なことを言うべきではないと自重したのか。
おそらく その両方なのだろう――と、ペルセウスは思った。

アンドロメダは、どう見ても十代半ば。子供といっていい歳である。
だが、この少年は、可愛らしい顔に似合わず思慮深い。
記憶を失っている自分自身を不安に思っているのは確かなのだが、アンドロメダは その不安や戸惑いを はっきりと表に出すことをしない子供だった。
せいぜい、時折 心許無げな目で宙を見詰めることがあるくらいで。
普通なら 自身の不安の対処をするだけで手いっぱいになるものだろうに、そんな状況下にあっても、アンドロメダは他者の心や立場を思い遣ることを当たりまえのようにする。
それは、豪胆といっていいほどの落ち着きぶり。
いったいアンドロメダは何者なのか。
どういうところで生きていた人間なのか。
ペルセウスは、アンドロメダの人となりが 不思議でならなかった。






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