アルベルトサンの動画を見付けた時には、これは氷河と瞬の冷戦を終わらせる 天からの恵みと信じ興奮していたのだろう星矢は、今は すっかり静かになっていた。
静かに、瞬に気遣わしげな目を向けていた。
その動画は確かに 氷河と瞬の冷戦を終わられるものではあったが、瞬が仲間たちに知らせたくなかったこと、瞬が仲間たちに知らせずにいたことを、白日のもとにさらし出すメッセージでもあったのだ。
瞬と共に視聴して初めて、星矢は そのことに気付いたらしい。
瞬と動画を見る前の自身の有頂天に 気まずさを覚えているような星矢に、瞬は軽く首を横に振って見せた。
星矢は何も悪いことをしていないと、無言で告げる。
瞬は、命をかけた戦いを共に戦ってきた仲間に何も知らせずにいた自分の方が悪いのだと 思っているようだった。

「僕の先生は……僕が 沙織さんをアテナと信じ、教皇に逆らったせいで命を落とした。僕のせいで、先生は死んでしまった。僕が アルベルトさんに謝ったって、僕の罪は消えない。そんなことをしても、先生は生き返らない。僕がしたことは、正しく自己満足にすぎない。それは わかってる。でも、僕は――」
瞬は、亡き師の面影を持つアルベルトサンに出会った時、悲しく幸福な夢を見てしまったのだろう。
自分のせいで師が命を落とすことのなかった世界の夢。
夢にすぎないと わかっていても――わかっているからこそ――アルベルトサンを見詰める瞬の眼差しは、いつも切なげだったのだ。

「なぜ、俺に言わなかった」
氷河は、ほとんど反射的に瞬に問い、そして、瞬からの答えを受け取る前に、氷河には その答えがわかってしまっていた。
「カミュのことを思い出させて、氷河まで つらくしちゃうと思ったから……」
氷河が“わかった”通りの答えが、瞬から返ってくる。
そんなことを瞬に問うた自分の迂闊を、氷河は悔いた。

師を失うつらさは、白鳥座の聖闘士も知っている。
白鳥座の聖闘士ことが知っている。
自分を教え導いてくれた師の恩に報いることもできないまま、師を失う つらさ、苦しさ、後悔。
瞬は、それを白鳥座の聖闘士の中に 蘇らせたくなかったのだ。
だから、氷河に誤解されても、仲間に真実を知らせることをしなかった。
瞬らしいことだと思う。
それは 本当に瞬らしい気遣いで、だが、それでも氷河は、瞬に真実を知らせてほしかったのだ。

「それでも言ってくれればよかったんだ。そうしたら 俺は、おまえのせいじゃないと言ってやったのに」
「それがわかってたから、言えなかったの」
「そうか……」
それもまた、瞬らしい。
許しを求めながら、その実 瞬は許されないことを求めてもいるのだ。
たとえ瞬の師が蘇って、瞬に『おまえを許す』と告げたとしても、瞬には自分を許すことはできないだろう。
瞬を許すことができるのは ただ瞬だけで、瞬は決して 自分を許すことはしないだろうから。
それが、瞬という人間なのだ。

そして、自分は何も悪くないのに、
「ごめんなさい、氷河。星矢、紫龍」
と、仲間たちに謝ってくるのも瞬らしい。
瞬が そういう人間だということは知っていたはずなのに、馬鹿げた嫉妬で 瞬との間に距離を置いていた自分を、本当に馬鹿だと 氷河は思ったのである。
白鳥座の聖闘士の愚かさを、瞬が許してくれることはわかっていたから なおさら、氷河は自分に腹が立った。






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