Eros,Agape






一つの王家が強大な力を持ち、長く続きすぎると、その王家の者は権力の座に胡坐をかき、傲慢になる。
王自身と王室と家臣と国の腐敗に気付かず、己れの権力を維持することにのみ汲々とし、改善を志さず、進歩もしない。
そういう状態を、神々は懸念する――好まない。
それでなくても 神々は、人間が この地上に生きて存在することに懐疑的なのだ。
神々は、それゆえ、伝説にあるように二百数十年に一度、王家と人間を試すのだろう。
――と、言う者がいた。

いや、伝説は伝説にすぎない。
実際に そんなことが行われたのなら、いずれかの王家に その記録が残っているはず。
伝説としてしか残っていないのは、それが伝説にすぎないからだろう。
きっと、これは そんな大層なことではない。
おそらく、どこぞの美しい人間を自分のものにしようとして 拒絶された神が、腹いせに人間界に呪いをかけたのだ。
きっと その程度のことに違いない。
――と、言う者もいた。

神が人間に呪いをかけた?
その考えは、いったい どこから湧いてきたのだ。
それこそ 伝説より根拠のない想像。
記録が残っていない伝説は伝説でしかないと言うが、記録が残っていないのは、過去に存在した すべての王家が 神の試しを乗り越えることができなかったからに決まっている。
神の試しが行われるたび、かつての王家はすべて滅びてしまったのだ。
それほど、この世界には 真に無欲で清らかな人間は存在しないのだ。
――と、反論する者もいた。

事実を知る者は誰もいない。
いたのかもしれないが、その者は 自分が知っていることを誰にも語らなかった。
ともかく、ある日 突然、その神託は下ったのだ。
この世界に存在する四つの王家に、ギリシャ世界の中心にある聖域の万神殿パンテオンを通して。
それが――それだけが、確かな事実だった。

このギリシャ世界に現在 存在している四つの国はすべて、二百四十年以上前に、ほぼ同時に起こった王室である。
その頃、ギリシャの神々が支配する世界で、神々をも巻き込んだ大きな戦いが起き、その戦いの後、四つの王室は同時に成った――と言われていた。
鳳凰の国、龍の国、天馬の国、白鳥の国。
それら四つの王家に下った神託。
それは、『大いなる神の意思により、四つの王家の王を 永遠の眠りに就かせる』という神託だった。

永遠の眠りに就いた四つの国の王たちを目覚めさせることができるのは、王たちに無償の愛を抱いている人間の口付けのみ。
どんな我欲も抱かず、どんな報いも期待せず、四人の王を愛する清らかな心の持ち主の口付けだけが、王たちを 永遠の眠りから目覚めさせることができるだろう。
永遠の眠りより、己れの意思で己れの有限の命を生きることを望むなら、四人の王は合議して、自分たちに無償の愛を抱いてくれていると思う心清らかな人間を一人だけ選び出さなければならない。
神託が下った日より5日後、四つの国の王たちは 永遠の眠りに就く。
永遠の眠りに就いた王たちを目覚めさせるのは、無償の愛だけなのだ。

それが、この世界を治める四つの国の王に下った神託だった。






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