他の三人の王は目覚めたのに、白鳥の国の王だけが目覚めない。
この事実を 民に公表するのは危険だというのが、三つの国の王たちの合致した意見だった。
四つの国の王たちに選ばれた“四つの国の王に無償の愛を抱く者”が鳳凰の国の王の弟だということが、この状況では問題になる。
鳳凰の国の王家の者が白鳥の国の王だけを目覚めさせない この状況は、鳳凰の国の王と その民が、 白鳥の国の王と その民に遺恨を抱いているのではないか、あるいは 白鳥の国に対して領土的野心を抱いているのではないか――という憶測を生むことになりかねない。
白鳥の国の民は 鳳凰の国の民を疑い、憎むことになるかもしれないのだ。

自分が面倒事を抱え込みたくないので、各種役職に就ける人材の選別と登用には極めて慎重で 適切な判断をし、瞬に夢中で 自身の贅沢には興味がないので、極力 無駄を省いた質実な生活を送っている氷河は、彼の国の民に 不相応なほど愛されていた。
その上、氷河は、自分の心を隠したり偽ったりすることにエネルギーを使わない男だったので、氷河が鳳凰の国の王弟に並々ならぬ好意を抱いていることは周知の事実。
氷河の弟への恋着を、鳳凰の国の王が快く思っていないことも大衆の知るところ。
熱烈に恋する人に、ただ一人だけ目覚めさせてもらえなかった氷河に、人々は大いに同情するだろう。
その同情心が、同情心のままであり続けるとは限らない。
何らかの攻撃的な力に変化する可能性がないとは限らない。
その時、この世界は 戦のない平和な世界で いられなくなるかもしれないのだ。

それゆえ。
氷河が永遠の眠りから目覚められずにいることは、極秘にしておかなければならなかった。
白鳥の国の運営は、氷河が選りすぐって任命した有能な官吏たちによって つつがなく為されるだろう。
王の決裁が必要なほど大きな問題が発生しない限り、当面は。
その“当面”のうちに、三つの国の王と瞬は、何とかして氷河を叩き起こす方策を考えなければならなかった。






【next】