走り出してから考える氷河は、だが、氷河なりに少しは大人になってくれていた。
星矢たちに相談したその日、その足で 氷河のマンションに出向いた瞬が、
「氷河は、僕が 氷河のマンションに引っ越していっても迷惑じゃない?」
と 氷河に尋ねると、彼は 珍しく喜色を顔に出して、瞬の言葉を喜んでくれたのである。
「おまえと毎日 会えるようになったら、ナターシャが喜ぶ。おまえが ナターシャの側にいてくれれば、俺も安心して仕事に行ける」

いまだ かつて出会ったことのない素直な氷河。氷河の素直。
だが、油断は禁物である。
氷河は 決して 自分から人に頼ることはしない男。
そんなことは、男の沽券にかかわると思っている男。
瞬は、氷河のプライドを傷付けないよう、
「ん。僕も 本当は、ナターシャちゃんの側にいたいんだ。その方が安心できるから。氷河が頼りないっていう意味じゃなくて、医師としてね」
と、言い訳めいたことも言ったのだが、
「ああ。助かる」
氷河の返事は、どこまでも素直。かつ、至って率直だった。
人は、扶養者ができると 片意地を張らなくなるのだろうか。
氷河の了承を得ると、瞬は すぐさま 引越しの手続きを始めたのである。






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