最初、ナターシャは、ネコさんは自分の部屋に置くと言っていたのだが、ナターシャの希望は 瞬に反対されて叶わなかった。
物は、重さが30キロもある陶器の置き物である。
ナターシャが ぶつかったり、大きな地震が起きて 倒れたり転がったりした時のことを考えると、それは子供部屋に置くには あまりに危険すぎるものだったのだ。
瞬に そう言われて、巨大招き猫を自室に置くことを断念したナターシャは、しぶしぶ(?)巨大招き猫を氷河の部屋に置くことに同意した。

子供部屋に置くのは危険。
リビングは客間を兼ねているので、趣味と人格を疑われるようなものは置きたくない。
キッチンやダイニング、廊下に置くのは作業や移動の妨げになる。
――等々のことを考慮すれば、巨大招き猫の置き場所は 氷河の部屋しかなかったのである。
氷河は それを瞬の家の方に押しつけようとしたのだが、瞬は、
「その招き猫は大きすぎるって、僕は忠告したよね?」
と言って、招き猫の引き取りを断固拒否した。

「これに懲りて、あとのことを考えずに 物を買うのは やめるようにしてね。可愛い招き猫は その戒めのためにも、氷河の部屋に置くのが いちばんいいんだよ」
氷河への瞬の指導は、前水瓶座の黄金聖闘士のそれより はるかに厳しくクールだった。
「俺の部屋は、おまえの寝室でもあるんだぞ。あんなものが ででんと構えているところで 何ができるというんだ! ムードぶち壊しじゃないか。おまえの部屋で引き取れ」
「何もできないなら、何もしなければいいでしょう。僕は、しばらく 自分の部屋で眠ることにするよ」
厳しい指導に慣れていない氷河は、指導される側の人間であるにも かかわらず、不敵にも 指導教官に異議を唱えたのである。
が、それは、藪を突いて蛇を出す行為――もとい、地球の裏側まで届くような深い墓穴を掘る行為だった。

同じマンションの別の階にある氷河の部屋と瞬の部屋は、前者が 主に生活の場、後者が 主に仕事と趣味の場と、いつのまにか自然に分けて使われるようになっていた。
スペース的には 瞬の部屋の方に余裕があるのだが、であればこそ なお一層、瞬の引き取り拒否は 氷河には きつかったのである。
いずれにしても、瞬が引き取りを拒否している以上、ナターシャの所有物は ナターシャの父である氷河の部屋に置くしかない。

仕事を終えて帰宅し、就寝のために自室に入ると 嫌でも目に入る巨大招き猫の姿は、氷河の疲れを倍増させてくれた。
しかも、猫の目が気になって 落ち着いて眠れないと言って、瞬は本当に自分の部屋で眠るようになってしまったのである。
氷河は、後先を考えずに行なった軽率な買い物を、嫌でも深く反省することになったのだった。






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