タイムマシンを作ろうとしていたカケルという名の少年のことを、瞬は それきり忘れたわけではなかった。
ただ、彼と彼のタイムマシンのことを思い出す時間と 心の余裕を持てなかっただけで。
カケル少年と出会って間もなく、瞬は それどころではない事態に追い込まれてしまったのだ。
カケル少年と彼のタイムマシンのことを思い出すことができたとしても、何ができただろう。
兄や仲間たちと引き離され、日本から遠く離れた絶海の孤島に送られてしまった瞬に。

瞬がカケル少年と彼のテイムマシンのことを思い出したのは、すべてが終わってから。
つらい修行に耐え、アテナの聖闘士になり、兄や仲間たちと再会し、幾多の戦いを戦い、勝利し、人間は誰も 決して無力な存在ではないと思うことができるようになってからのことだった。
幼い頃に 毎夜 見ていた死と闇の夢の原因を知り、その原因である冥界の王の企みから 地上世界を守り抜いてから。
もう地上世界が滅びることはない。
もし また そんな危険が世界に降りかかっても、自分は その脅威と戦い、この世界を守り抜くと 決意できるようになってから――瞬は、幼い日に出会った奇妙な出会いのことを思い出したのである。






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