「お断わりするにしても、一度 パパンドレウ氏と会ってちょうだい。あなたに その意思はないと、私が伝えたところで、向こうは『はい、そうですか』と引き下がってはくれないと思うのよ。多分、それなら自分が直接 会って説得すると言い出すだけ」
そう言って 氷河の家を辞した沙織が、その日のうちに、瞬とパパンドレウ氏の対面の場を設けた旨を 瞬に知らせてきたところを見ると、瞬を養子に迎えたいというギリシャの富豪の話は 冗談や軽口の類ではなかったのだろう。
そして、沙織の推察通り、パパンドレウ氏は直接 瞬を説得したいと 彼女に申し出たのだろう。

瞬は、本当に わからなかったのである。
パパンドレウ氏なる人物を、瞬は全く知らなかったし、もちろん、見知らぬギリシャ人に養子に望まれる理由についての心当たりもない。
何かの間違いだと、氷河にも告げたのだが、彼はパパンドレウ氏への不審感でいっぱい。
瞬に心当たりがないのなら 一方的に瞬を見初めた変身者に違いないと決めつけて、彼はパパンドレウ氏と瞬の対面の場に同席すると言い張った。
おまけに。
「ナターシャも行く! 絶対に行くヨ! パパとナターシャから マーマを取らないでって、ナターシャ、パン屋さんにお願いするヨ!」
氷河の激昂に ただならぬものを感じたらしいナターシャまでが、マーマを守るために パパと共に戦うと断言。
瞬が何度『一人で大丈夫』と言っても、氷河とナターシャは引き下がってくれなかった。






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