パパ、マーマ。
ナターシャは、パパとマーマの“優しい いい子”でいたい。
ナターシャは、パパとマーマの可愛いナターシャでいたい。

パパ、マーマ。
でも、ナターシャは これ以上、一人でいるのに耐えられない。
ナターシャは、パパとマーマに会えないことに耐えられないの。
だけど、ナターシャは パパとマーマに嫌われるのは 絶対に嫌。
パパとマーマに愛されていないナターシャになることには、もっとずっと耐えられない。

だから――。
ナターシャは、パパとマーマのところに帰るのを諦めるよ。
パパ、マーマ。
ナターシャは、ナターシャの心を凍らせることにしたよ。
そうして ナターシャは永遠の眠りに就くの。
永遠に目覚めることのない眠りだよ。
そうしたら、パパは きっと、ナターシャを ずっと好きでいてくれるよね?
マーマは、ナターシャを とってもいい子だって褒めてくれるよね?

ナターシャは、パパとマーマの“優しい いい子”でいたい。
ナターシャは、パパとマーマの可愛いナターシャでいたい。
だから、ナターシャは この世界で眠るの。

ナターシャは――ナターシャは、これ以上 心が起きているままだと、これ以上 パパとマーマのことを憶えているままだと、パパとマーマに会いたくて、会えないことが 悲しくて、寂しくて、死んでしまいそうなの。
だから。
大好きなパパ。
大好きなマーマ。
おやすみなさい。
パパとマーマ以外の人は誰も、永遠に ナターシャを起こさないで。
私は、永遠にパパとマーマに愛されていたい。



そうして、ナターシャの心は 永遠の眠りの中に落ちていった。
その身体は 胎児のように小さく丸く、薄闇の中に浮かんでいる。
ナターシャの心が凍りつき、活動するのをやめて、無音だけが残された その空間に、
「奇妙なところで、奇妙なものを見付けた」
低い声が響く。
その声は、楽しそうに、
「恩を売っておくか。余の瞬に」
と、呟いた。






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