あなたが氷河のマンションに引越したとは、どういうことです! 俺は そういう意味で言ったんじゃない。 俺は、氷河に育児は無理だから、やめさせてくれと言ったのであって、氷河一人では育児は無理だから彼に協力しろと言ったのではない! 愛があれば何とかなる? 何を寝ぼけたことを言っているんだ! 俺が 氷河に育児は無理だと思うのは、氷河には愛しかないからだ! 百歩譲って、あなたが子供を育てるというのなら、俺は止めない。 あなたは、愛だけでなく、子供を育てるのに必要な知識や経済力や常識というものを持っている。 俺は、氷河だから止めるんだ! それは もちろん、その子に 氷河だけでなく あなたがついているのなら、誰も文句は言えないだろうが――。 それを承知の上で、あなたの手を借りることにしたのなら、氷河はずるい。卑怯だ。 そういえば、あなたは昔から、いつも楽しそうに氷河に 振り回されていた。 星矢に振り回され、一輝に振り回され――あらゆる意味で、あなたがいちばん強いのに! ――と書いていて、今 気付いた。 そうか、これは、あなたを手に入れるための氷河の策略だったんだ。 やはり、氷河は狡猾な男だ。 何も考えていないような態度を装って、頭の中では卑怯な策略を思い巡らせているんだ。 あんな男に憧れていたなんて、俺は かつての自分を ぶん殴りたい気分だ。 馬鹿だ。 俺は馬鹿だ。 どうして 俺は あんなに馬鹿だったんだろう! すみません。 手紙で取り乱してしまった。 ナターシャの絵を同封してくれてありがとう。 あれで 俺に 氷河の育児を容認させようとしているのなら、あなたの期待には沿えないが――ともあれ、ナターシャちゃんには、とても上手だと伝えてください。 だが、あの絵。 『ききのえ』と書いてあったが、どう見ても猿の絵にしか見えないのは、俺の気のせいか? 氷河は(あなたではないと信じています)、俺をどういう男だと説明したんだ。 次に会った時には、そこのところをしっかり説明してもらうつもりなので、その旨を氷河に伝えておいてください。 聖域にて
貴鬼
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