あなたと俺の文通(なのか、これは)のことを聞いたらしく、先日、星矢と紫龍から手紙が届きました。
二人共、ナターシャの件は心配するなと書いてきた。

紫龍からは、春麗さんがナターシャの世話をできることを喜んでいる――と。
翔龍が母の手を離れてしまい、春麗さんは寂しがっていたようですね。
育ての親も 夫も 息子も聖闘士。
彼女の境遇、彼女の心を思うと、その強さが悲しくなる。

紫龍と春麗さんがナターシャを引き取り 育てるというのなら、俺だって、それはいいことだと思うんだ。
氷河だから安心できないだけだ。
今からでも、ナターシャを春麗さんに預けることはできないんですか。
それで全方面が丸く収まるんだ。
再考願います。

星矢は、ナターシャの遊び相手になってやっていると、得意げに書いてきた。
俺に言わせると、星矢は氷河とどっこいどっこい。
星矢の方がナターシャに遊んでもらっているに違いないと、70パーセントの確信を持って思うんだが。
すっかり ナターシャに懐かれて、おやつのクッキーを分けてもらえるほどだと 自慢げに書いてくる星矢の神経が、俺には信じられない。
餌付けされているのは、どう考えても星矢の方じゃないか!

氷河は 着々と味方を増やしているようで、何よりだ。
だが、俺は あくまで反対ですからね。
氷河が子育てなんて、育てられた子供までが 氷河みたいに支離滅裂な人間になったら どうするんですか!
あなたたちのように 良識や寛大や忍耐力を備えた仲間が側についているから、氷河は かろうじて 大人の振り、普通の社会人の振りができているんだ。
ナターシャが、氷河と同じように、良識や寛大や忍耐力を備えた仲間に恵まれるとは限らない。
そこのところを、よくよく考えてくれ。

それと――。
星矢が、自分がいなかった間のあなたのことを心配していました。
いや、あなたのことを心配していたというのは、適切な表現ではないかもしれない。
むしろ逆。
星矢が書いてきた文を、そのまま書くと。

『俺は、ずっと 瞬に心配をかけていたんだろうな。
俺は、瞬たちのお荷物になりたくなかったから、連絡を絶っていたんだけど。
その方が 瞬には心配をかけるんだって、お荷物を背負わされている方が 瞬には安心なんだって、わかってたんだけど、俺にも聖闘士としての意地があってさー』
――だそうです。
『離れてても、会えなくても、俺たちは仲間だって信じてたし』


そうなんだろうと、俺も思った。
あなた方の絆を羨ましいとも思った。
ナターシャが そんな仲間たちに出会えるという保証があるのなら、氷河がナターシャを養育することに、俺も 頑なに反対し続けようとは思わない。
だが、あなたたちの絆は、やはり特殊で稀有なものだと思うんだ。
俺は 悲観的になりすぎていますか?


聖域にて
貴鬼






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