先日は、支離滅裂な手紙を出してしまいました。すみません。
『マーマをとらないで』に、つい 取り乱してしまったんだ。
申し訳ない。

ナターシャに、俺の手紙はラブレターではなく お仕事の手紙だと言ってくれたそうで、ありがとう。
――と言うべきなのか? 俺は?

用心のために言っておくが、先日の手紙で 一輝に言及したくだりは、決して 一輝に知らせないでくれ。
この上、一輝から “いかりのおてがみ”なんてものを受け取る羽目になったりしたら、俺は聖闘士として戦う前に、人間として生きていることさえ 不可能になってしまう。

氷河が、ナターシャを世界一 幸福な子供にしたいと思っていること、幸福な子供の側には 優しいマーマがいなければならないと思っていることは、よく わかりました。
だが、俺が言いたいのは、そういうことじゃないんだ。
氷河が そう信じていることを、否定するつもりもない。
そう信じる氷河の気持ちも、俺なりに理解できるつもりだ。

俺が言いたいのは!
俺が得心できないのは、そのマーマの地位に、なぜ黄金聖闘士バルゴの瞬が就任しなければ ならないのかということなんだ!
ああ、駄目だ。
この件に関しては、俺は まだ冷静に考えられるだけの余裕を持てない。
話題を変えよう。

シュラが氷河の店でバイトをすることになったとか。
黄金聖闘士が二人で営むバー。
恐すぎる。
誰が そんな店に行って、心穏やかに酒を たしなんだりできるんだ。
一般人になら可能なのか?
そんな恐れ知らずなことが?
だとしたら、この世に、一般人ほど強い心臓と厚い面の皮と図太い神経の持ち主はいないだろう。

デスマスク、アフロディーテ、ミロ。
亡くなった黄金聖闘士たちが現世に現われ、我々と共に戦う意思を示してくれたとか。
あの人も もしかしたら――と期待してしまう俺は馬鹿だ。
あの人は敵にまわる。
それは 確かな予感として、俺の中に確固として存在するというのに。
だが、その予感は まだ現実のものになったわけじゃない。

……こんなことを思うのは、未練なのか。
どうあっても、異世界の聖闘士たちとの戦いが避けられないものなら、あの人と共に――と期待しながら、あの人とどう戦えばいいのかを考えている自分が悲しい。

おかしなもので、最近、ナターシャの『ききのえ』や『ごきげんななめなパパ』の絵を見て、気持ちを落ち着けています。
素直な心で描かれた子供の絵には、不思議な癒しの力がある。
『ききのえ』はともかく、『ごきげんななめなパパ』は、氷河がイケメンに見えないところがいい。
黄色の髪と青い目が描かれていなかったら、シンメトリーなところが一ヶ所もない あの絵が、氷河を描いたものだなんて、誰も気付くまい。
それでいて、ナターシャがパパを大好きでいるということが 強く伝わってくる温かい絵。
今度は、マーマの絵を――もとい、瞬の絵を描いて送ってほしいと、ナターシャに伝えてください。


聖域にて
貴鬼






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