ナターシャのオネガイが あまりに想定外で、戸惑い、慌て、咄嗟に答えをごまかしてしまったが、『ナターシャに妹を与えることはできない』と言うことは、それほど難しいことではない。 ――ということに、時間の経過によって冷静さを取り戻すにつれ、瞬は気付いた。 むしろ これは、“どんなに欲しくても、欲しいものが 必ず 手に入るとは限らない”―という事実をナターシャに教える いい機会。 命が一つ生まれることは奇跡といっていいほどの大事件で、ナターシャが ここに生きていることだけでも、それは大変な幸運なのだと言えば、ナターシャも その事実を喜び、聞き分けてくれるだろう。 瞬は そう思った。 そう思ったのだが、それとは別に。 「ナターシャちゃんに 妹をあげることはできないけど――でも、確かに、ナターシャちゃんに 兄弟姉妹がいたら、いざという時に 互いに 支え合うことができて、いいかもしれないね。ナターシャちゃんが妹を欲しがるのは、自然なことなのかもしれない。万一、僕たちに何かあったら、ナターシャちゃんは一人きりになってしまうわけだし」 瞬の中に そういう考えが生じたのは、他でもない 瞬自身が、幼い頃から常に兄の存在に支えられ 力づけられてきたという事実ゆえだったろう。 兄がいなければ、今の自分はあり得ない――生きてすらいない――と確信できるから。 そして、そんな瞬に 氷河が、 「それは、兄弟でなくても、仲間がいれば十分だろう。兄弟などいても――居場所すら知らせてこなくて、まるで頼りにならない どこぞの兄貴みたいなのもいる」 と応じたのは、他ならぬ氷河自身が、兄弟ではなく仲間に支えられ力づけられてきたという事実ゆえだったろう。 兄弟がいなくても、自分は今、現に こうして生きているという、紛う方なき事実ゆえ。 瞬は、氷河の その意見に異議を唱えることはしなかった。 事実は事実で、動かし難い。 反駁したところで、氷河を不機嫌にするだけだということは、瞬にもわかっていた。 だが――。 氷河は そう言うが、たとえ音信不通の兄(もしくは姉、弟、妹)でも、この世界のどこかに兄(もしくは姉、弟、妹)がいてくれると思うだけで、力強く感じ、心の支えになってくれるのが“きょうだい”というもの。 そして、基本的に、親は子供より先に死ぬものなのだ。 瞬が そういう考えでいることは、氷河も わかっていただろう。 氷河も、瞬の考えに異議を唱えることはしなかった。 瞬が兄を慕う気持ちを変えることはできない。 反論したところで、瞬が その考えを決して放棄しないことは、氷河にも わかっていたのだ。 |