「氷河は、おまえに何か言ってきたか?」
星矢さんと紫龍さんが、一輝さんと同じようなことを(だが、微妙にニュアンスは違っている)、私に尋ねてきたのは、その翌日。
瞬の仲間たちは、私と氷河さんの様子が――否、瞬と氷河さんの様子が――よほど気になるらしい。
瞬と氷河さんの間には、どれほど深く複雑な確執があったのか――。
もしかしたら それは、善良な瞬と 悪い人ではない氷河さんだから――瞬と氷河さんが共に悪人ではないからこそ 生じた複雑さなのかもしれない。

「いいえ。ただ、私と彼は仲が悪かったようなことを言っていました」
「氷河が そんなことを言ったのか? おまえと自分が仲が悪かったって?」
「はい」
それは とても――私には悲しい事実だった。
たとえ借り物の身体とはいえ、瞬と氷河さんの仲が悪いということは、私と氷河さんの仲が悪いということでもあるのだから。
一度 紫龍さんと 顔を見合わせてから、星矢さんは 私に思いがけないことを教えてくれた。

「あのさ。一応 言っとくけど、氷河は おまえのこと好きだったんだぞ」
「えっ」
なぜか心臓が 撥ね上がる。
今 この心臓を動かしているのは、瞬さんか。それとも 私なのか。
「そ……そうなんですか」
なるべく冷静を装って 確認を入れた私に、今度は 紫龍さんから、
「今も多分」
という答え。
氷河さんが、私を嫌っていない?
本当に?

「で……では、瞬――私が彼を嫌っていたのでしょうか」
そんなことがあるはずがない。
もし そうだったとしたら、それは何らかの誤解のせいだったに決まっている。
私の心は(それとも、それは瞬の心なのか?)、私に そう訴えていた。

「まさか。おまえは 人を嫌わない奴だった。誰も嫌わない奴だった」
「人を誰も嫌わないなんて、そんな人間はいないでしょう」
「でも、そうだったんだ。おまえは 特別な人間で――だからこそ、ハーデ……いや」
星矢さんが、ふいに 言葉を途切らせる。
いったい彼は何を言おうとしたのか。
できれば ごまかさずに教えてほしいと 言いたかったのに。
実際に、私は そう言おうとしたのに。

「おまえと氷河は仲がよかったぞ」
紫龍さんに そう言われたのが嬉しくて、私は星矢さんが言いかけた言葉の続きを確かめることができなかった。






【next】