「パパ、すっごく カッコよかったんダヨ!」
いつもの10倍 ご機嫌のナターシャは、いつまで経っても 興奮が治まらず、お昼寝の時間になっても なかなか寝つけなかった。
この興奮を静めるためには、パパの活躍を誰かに報告するしかないと気付いていたナターシャは、仕事から帰ってきた瞬に 早速 今日の出来事の報告を開始。
マーマも喜んで大興奮するに違いないと思っていたナターシャの予測は、残念ながら外れてしまった。
氷河の大活躍の話を聞いた瞬は、顔をしかめて、ちょうど仕事に出る準備を終えてリビングルームにやってきた氷河に小言を言い出したのだ。

「どうして、そんな危ないことをするの」
「ナターシャが、ターザンロープで遊びたがっていたんだ」
「だからって、腕力に訴えるのは――」
「マーマ。パパは正義の味方だったんダヨ。悪者をやっつけたんダヨ! カッコよかったんダヨ!」
『なのに、どうしてパパを叱るの』と、ナターシャが言葉にして尋ねなかったのは、瞬が本当に氷河を叱っているのかどうか、自信が持てなかったからだった。
瞬は 滅多に声を荒げないので、ナターシャは、パパよりマーマの感情の方が掴みにくいと感じることが、時々あった。
今、マーマはパパを褒めていないだけで、叱っているわけではないのかもしれない。
叱っているのではなく、心配しているだけなのかもしれない――と、ナターシャは迷ったのだ。
実際、迷っているナターシャに 瞬が向けてきたのは、見紛いようもなく 心配顔だった。

「そうなんだけどね。氷河にやっつけられた悪者が、仕返しに来たら大変でしょう? 氷河はカッコよかったかもしれないけど、悪者たちは カッコ悪かった。悪者たちは 自分たちがカッコ悪かったことを なかったことにしたくて、また広場にやってきて暴れるかもしれない。ナターシャちゃんには いつも氷河か僕がついているから、どんな悪者が来ても平気だけど、そうじゃない おうちの子供たちは、悪者が恐くて、ちびっこ広場に遊びに来れなくなっちゃうよ」

「デモデモ、パパが悪者をやっつけなかったら、悪者が公園を占領しちゃってたかもしれないヨ」
「そうだね。いちばんいけないのは、氷河じゃなく、みんなを広場から追い出していた悪者たちだね」
「ソーダヨ! パパは悪くないヨ!」
「んー……」
マーマは、ナターシャの主張を全面的に受け入れてくれなかった。
『そうだ』とも『違う』とも言わず、ナターシャに困ったような微笑を向けてくる。
ナターシャは、マーマがパパを褒めないのが不思議で――納得できなかったのである。






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