マーマがいなくなって、俺は 浮浪者同然になっていた。 俺がマーマと暮らしていた家は、いつのまにか 俺の家じゃなくなってたんだ。 あの家には、俺とマーマが使っていた家具や食器や服だって置いてあったのに、俺は いつのまにか あの家に入る権利を失ってた。 「薄汚いガキだな。汚い恰好。ひどい匂い。近寄るんじゃない!」 「こいつ、いったい何を食って生きてるんだ? 半月も獲物にありつけていないオオカミみたいな目をしてやがる」 本当のことしか言わない奴等の言うことは、疑いもなく真実で――信じやすかった。 時々、奴等は馬鹿なんじゃないかと思うことはあったがな。 俺が何を食ってるか――なんてことは どうでもいいことだろう。 俺の手足じゃないことは確かだ。 マーマが死んで2ヶ月ほど経った頃、俺は、見知らぬ男たちに捕まった。 最初は、警察とか福祉事務所とか、そういう面倒くさい お役所の奴等かと思ったんだが、どうも そういうわけでもなさそうで。 そいつ等は、誰かの依頼で 俺を探していたらしい。 「おまえ、日本人の血が入ってるんだって? どういうことなのかは 知らん が、日本の施設で おまえを引き取ってくれることになったそうだ」 「にしても、よりにもよって、こんなのが何だってまた。おまえ、知ってるか?。日本人ってのは、毎日 何時間も風呂に入るらしいぜ。貴様みたいに汚くて臭いガキは、きっと残飯扱いだ」 「目つきがもう、群れから追われたオオカミか、狂犬病の野良犬だ。普通、誰も近寄りたがらない」 「いやいや。これはこれで使い道があるのかもしれないぞ。食い物のためなら、何でもするだろうし」 「どうせ つま弾きにされるのなら、生まれ育った故国より、見も知らぬ異国の方がいいかもしれないな。諦めがつくだろう? 汚いから嫌われるんじゃなく、外国人だから相手にされないんだと思える」 好き勝手なことを言う男たち三人に 小突き回されながら、俺は、日本からの使いの代理人だとかいう男の許に連れていかれた。 ありふれた二流ホテルの いちばんいい部屋だ。 狂犬病の野良犬と大差ないにしても、子供一人に 大の大人が三人掛かりだったのは、俺を見付けて連れてきた奴に礼金が与えられることになっていたからだったらしい。 三人掛かりだったんだから、礼金も3分の1にすればいいのに、代理人は 三人に一人分の礼金を渡した。 それが思いがけないことだったらしく、俺を捕まえた男たちは 想定の3倍の礼金を受け取ると、金払いのいい代理人だけでなく 俺にまで 愛想笑いを振り撒いて、さっさと酒を飲みに行ってしまった。 そして、俺は どうやら日本に連れていかれるようだった。 金払いのいい代理人は 俺をバスルームに放り込み、2時間は そこから出てくるなと、俺に厳命した。 日本。 そこに何があるのかは知らないが、食い物をくれるんなら、俺としては、生きる場所はどこでもいいし、どうでもよかった。 ここよりましか、悪くなるのか。 今より ましになるのか、悪くなるのか。 それは わからなかったが、俺には他に選択肢がなかった。 今日 飢えて死なないための食い物を求めて、俺は日本に向かった。 |