氷河。こんにちは。 君が君に宛てて書いた手紙を読みました。 その手紙で、君の投げやりな気持ちを知り、放っておけなくなって、僕は この手紙を書いています。 君には 信じられないでしょうけど、僕は未来にいます。 きっと、君より十数年は未来の世界の住人です。 未来の世界では、個人的に紙の手紙を出す人はとても少ないの。 誰もが、有線無線の電子データで意思の疎通や情報の伝達をするようになっています。 そんな未来の世界で、僕は君の手紙を見付けました。 氷河。 僕は未来の君を知っています。 驚かないでね。 未来の君は、可愛い女の子のパパになっています。 決して、いつ死ぬか わからないような人生を歩んではいません。 君は、あの手紙を書いた後も、少なくとも十数年――きっともっと長く生き続けます。 小さな女の子を残して死ぬわけにはいかないから。 未来の君は、自分の命を生きることに、強く執着しています。 必死に生きている。 そんな君は、とても幸せそうにしているよ。 だから、氷河。 自分に未来がないなんて決めつけて、投げやりな生き方をしないで。 君はナターシャちゃんの とてもいいパパだよ。 しっかり生きてください。 ナターシャちゃんの立派なパパになるために、ナターシャちゃんが自慢できるパパになるために。 忘れないで。 投げ遣りにならないで。 諦めないで。 氷河。 君は幸せになります。 どうすれば、この手紙を十代の迷える氷河に届けることができるのか。 手紙を書いているうちに、瞬には その方法がわかってしまっていた。 現在と過去、過去と未来を繋いでいるのは、今ではほとんど見掛けなくなってしまった赤い帽子をかぶった円筒状のポストなのだと。 書き終えた手紙を封筒には入れず、ポストに入る大きさに畳んで、投函口から ポストのおなかの中に落とす。 それを箱に収めて、サイドテーブルに置く。 ポストに投函された手紙の回収頻度と その間隔は わからないが、不思議な郵便屋さんは きっと、1日に1回は回収にきてくれるだろう。 そう考えて、瞬が、ポストの中を確認したのは、翌日の同時刻。 『不思議なことに』と言うべきか、『やはり』と言うべきか。 瞬がポストに投函した手紙は消えていた。 時間を飛び越えることのできる不思議な郵便屋さんが 回収してくれたのだろう。 あの手紙が、無事に 十代の氷河に届いてくれればいいのだけれど。 『郵便屋さん、よろしく』と、瞬は、心の中で呟き祈った。 |