俺は努力家だ。
好きな人のためなら、どんな試練もどんな苦難も、苦とも思わず乗り越える。
聖闘士になる修行中、各国の情報が色々――もちろん、エティオピアの王家に関する情報も――入ってきて、そういう意味で、聖域は便利なところだった。
聖域は、世界情勢に関する ありとあらゆる情報が集まってくる場所だったんだ。

その情報によると、エティオピアの現国王(瞬の兄)は年齢不詳。
瞬と3、4歳しか歳が違わないはずなのに、どう見ても 20歳は年上に見えるらしく、本当は前国王の長子ではなく 弟なのに、王位継承をスムーズにするために長子と偽っていたのではないかという冗談が冗談に思えないくらい老けてみえる男らしい。
十代半ばで王位に就いてまもなく、血気に逸り、大国の武力に驕って スパルタに戦を仕掛け、手痛い敗北を喫した。
その際、九死に一生を得てから、慎重になったらしい。
それ以来、賢明な英王としての評判を取っているのだそうだった。

そして、これは、聖域外秘なんだが、瞬の兄であるエティオピア現国王は、不死鳥座の聖衣を授かることが内定しているんだとか。
俺は、“瞬より3、4歳 年上だけど、どう見ても20歳は年上に見える兄貴”というのが想像を絶していて、それ以上 考えるのをやめてしまった。
考えても益のないことは、俺は考えないことにしてる。
ただ、その話を聞いた時、エティオピアの王弟も聖闘士志望らしいと聞いて、俺は一刻も早く聖闘士になり、瞬に その希望を断念させなければならないと慌てたな。

あの清らかで可愛らしい瞬が、アテナの聖闘士なんて殺伐としたものになっちゃいけないと、俺は思うんだ。
そんなの、花の女神に戦を強いるようなもの、愛の女神に 争いを強いるようなものだ。
そんなことはあっちゃいけない。
だから、俺は、死に物狂いで 聖闘士になるための修行に打ち込んだんだ。

そうして、聖域に来てから6年後。
俺はめでたく、アテナの聖闘士になることができた。
白鳥座の聖衣を我が物にすることができたんだ。
アテナの聖闘士になって、俺が最初にしたこと。
それは もちろん、エティオピアに飛んでいくことだった。






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