2通目の脅迫状。
1通目と同じ長4サイズの茶封筒に、今度は、郵便番号も書かれていなかった。
宛名は、『せいや殿』のみ。
郵便番号も住所も書かれていないのだから、それは郵便配達員によって配達されたものではない。
そもそも城戸邸では、郵便配達物 受け取り専用窓口があり、配達員が1通だけをエントランスホールに置いていくことは不可能。
とすれば、誰か外部の人間が城戸邸内に入り込んで置いたか、内部の人間の仕業――ということになる。
のだが。

この2通目の脅迫状が、事態を混沌とさせた。
2通目の脅迫状さえなければ、事態は 至ってシンプルだったのである。
理由はわからないが、星矢を脅す一般人がいて、星矢に脅迫状を郵送し、一般人なら怪我をしていたかもしれないような傷害事件を幾度か起こし、その都度 未遂に終わった。
それだけのことだった。
2通目の脅迫状さえなければ。
だが、2通目の脅迫状は、外部の人間が届けたものにしろ、内部の人間が置いたものにしろ、一般人には届けることが不可能なものだったのだ。

城戸邸でオフィシャルといえば これ以上ないほどオフィシャルなエリアであり、最も人の出入りの多いエントランスホール。
外と内の2方向から、入る人間と出る人間をすべて広角レンズカメラでチェックしていた その空間に、誰が脅迫状を置いたのかを、城戸邸が警備を任せているセキュリティ会社は突きとめることができなかったのである。
監視カメラの映像データに、それらしい人物は映っていなかった――というのだ。
それは、超能力者が瞬間移動でもして置いたというのでなければ、説明のつかない事態だった。

しかも、城戸邸のオフィシャルエリアの監視カメラは、つい2ヶ月前に最新型のものに変えたばかりで、画像鮮明、画像データの検索も迅速。AIがデータを分析し、異常を検知して警告する優れもの(のはず)だった。
そのセキュリティシステムが感知できなかった侵入者となると、脅迫者が一般人だとは考えにくい。
「脅迫されているのが星矢でなく氷河なら、一輝の仕業なのではないかと思うところなんだが」
紫龍の呟きが、現況の わかりにくさを わかりやすく言い表していた。
聖闘士の仕業にしてはレベルが低く、一般人の仕業にしてはハイレベル。
それが、一連の星矢脅迫 及び障害未遂犯の不可解な犯人像だった。

「エントランスの監視カメラに、実は死角があった! なんて落ちじゃないだろうな」
「超広角レンズカメラが4基。重複して映っている場所はあっても、死角はないわ」
星矢が指摘した可能性を、沙織が あっさり却下する。
「防犯カメラを増やすべきなのか、そもそも設置しておいても あまり役に立たないものなのか。セキュリティシステムの根幹を揺るがす謎ですね」
お手上げの意を示すために、手ではなく両肩を上げた瞬を見て、沙織は逆に その顎を下方に引いてみせた。






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