「あんなに魔鈴さんの怒鳴り声を喜ぶなんて、ナターシャちゃんは叱られたがってるのかな」
星矢を引っ張り出すのに夢中のナターシャは、客間のドアを開け放して出ていった。
そのドアを閉じて、元の場所に戻ってきてから、瞬は思案顔で呟いたのである。
「いけないことをした時は、ちゃんと注意してるんだけど……。ナターシャちゃんは いけないことをしても、注意すると繰り返さないから、大声をあげて叱る必要がないんだよ」
いい子の親には、いい子の親なりの悩みがあるものである。
「氷河と違って?」
そこに紫龍が茶々を入れてくる。
彼は茶々のつもりだったろうが、瞬は、その混ぜっかえしに、至って真面目な答えを返すことになった。

「氷河も、最近は、ナターシャちゃんのお手本にならなきゃならないから、わりと いい子なんだ。以前は 本や服を放り投げて 平気な顔してたのに、ナターシャちゃんが来てからは、ちゃんと片付けるようになった」
「ほう。それは感心だな」
「おまけに 氷河が何か おいたをしてもね、僕が叱る前に、ナターシャちゃんが氷河に注意してくれるんだよ。マーマはいい子が好きなんだよって」
「実によくできた娘だな」
「まったくだ」

紫龍と魔鈴は、氷河の“よくできた娘”を褒めることで、『親として情けない』と 氷河を非難していたのだが、ナターシャを褒められた氷河は 至極ご機嫌。
「俺と瞬の娘だからな」
この流れで 得意顔をしていられる氷河の親馬鹿振りは、紫龍と魔鈴は もはや感心するしかなかったのである。






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