お堀の氷の下の水が、冷水ではなく シャーベット状だったので、王女様の服や毛皮には すぐに水が沁み込まなかったのでしょう。 王女様は、直接 水に触れた頬が 凍傷になっただけで、命は取りとめたようでした。 氷河と瞬とマーマが暮らしている浜辺の家に、王宮から 大勢のお供を引きつれた王様の行列が お礼を言いに やってきたのは、王女様救出劇の3日後。 王女様救出劇の後、氷河も、濡れた身体を温めるために すぐに家に帰ったのですが、氷河と瞬の見事な連携プレイを見ていた人たちが エキサイティングな見世物に大盛り上がりして、氷河と瞬の知らないところで、二人はいつのまにか 一躍 小ルーシの時の人になっていました。 それで、二人の家や素性も すぐに王様の知るところとなったのです。 王女様の命を救ったのに、名も名乗らずに姿を消した、奥ゆかしく控え目な幼い英雄たちに、王様は どんなご褒美でも、望むものを与えると言いました。 氷河が救出劇の場から 名も名乗らずに姿を消したのは、自分の服が びしょ濡れだったから 早く家に帰りたかっただけで、別に氷河が 奥ゆかしいわけでも控えめなわけでもありませんでした。 何だか本当のことは言いにくい雰囲気でしたし、面倒だったので、氷河は 本当のことは言いませんでしたけれどね。 王様に、『どんなご褒美でも、望むものを与える』と言われて、氷河と瞬は困りました。 氷河と瞬は、既に 欲しいものを持っていたのです。 氷河は 瞬とマーマを、瞬は 氷河とマーマを。 ですから、氷河と瞬は、王様に何をお願いすればいいのかわからなかったのです。 でも、せっかく 王様がご褒美をくれるというのですから、二人は、マーマのために 素敵な刺繍糸と上等の刺繍針をくださいと、お願いしました。 こういう時、普通の人は、金銀宝石をお願いするものなのですが、氷河は 金銀宝石より 瞬とマーマの方がずっと価値があると思っていましたし、瞬は 金銀宝石より 氷河とマーマの方がずっと価値があると思っていましたので、そういうことになりました。 氷河と瞬に そんな ご褒美を求められて困ったのは、わざわざ 行列を整えて 氷河と瞬の家までやってきた王様です。 王女様の命を救ってくれた英雄に、そんな しみったれたご褒美を与えたら、この国の民は王様のことを どう思うでしょう。 なにしろ氷河と瞬は、今 小ルーシの話題の人で、時の人。 その話題の人への王様からのご褒美が 刺繍糸と刺繍針だなんて、小ルーシの民は 自分たちの王様のことを ものすごくケチ臭い王様だと思うに決まっています。 国の民だけでなく、氷河たちに助けられた王女様だって、自分の命の代償が 針と糸だけだったなんて聞いたら、王様の愛を疑うに決まっていました。 もっとカッコいいご褒美をお願いするようにと、王様は氷河と瞬に命じ、命じられた二人は 困ってしまってマーマの顔を見ました。 マーマなら、大人ですから、何かカッコいいご褒美を思いつくかもしれないと、二人は思ったのです。 もちろん、マーマは ちゃんと 超カッコいい ご褒美を思いつきましたよ。 マーマは、王様に、氷河と瞬を学校に通わせてやってほしいと 頼んだのです。 学校というのは、お金持ちの家の子供しか通えない特別な施設です。 授業を受けるのにお金がかかりますし、貧しい家の子供たちは、学校に行っている暇があったら、漁に出たり、家の中の仕事をしたりしなければなりませんでしたから。 『俺たちが学校になんか行っていられるわけがない』と言おうとした氷河は、けれど、そう言うことができませんでした。 太っ腹なところを見せなければならないと焦っていた王様が、大喜びで、マーマの願いを叶えることを請けあってくれたのです。 学校に通う許可だけではありません。 王様は、氷河と瞬が学校に入ってから卒業するまでの学費と生活費を支給することも約束してくれました。 おまけに、氷河と瞬が 学校に通いやすいように 町の中に大きなお屋敷を一軒 用意することも、約束してくれました。 もちろん、素敵な刺繍糸と刺繍針も。 王女様の命には それ以上の価値があるのだと言って、氷河と瞬が 漁に出て稼がなくてもいいくらいの年金も保障してくれたのです。 王様は、そのご褒美に大変 満足しました。 金銀宝石を与えるより スマートですし、文化的ですし、粋ですし、それで氷河と瞬が小ルーシの国の役に立つ人間に育ってくれたら、国と国の民のためにもなりますからね。 実際、そのご褒美は、小ルーシの王様は大層思慮深い王様だという評判を取らせることに役立ちました。 最初に そのご褒美を思いついたのは王様ではなく マーマでしたけれど、それは内緒。 もともと学校に行けるのなら行きたいと思っていた瞬は、このご褒美に大喜び。 氷河は、別に 学校に行きたいわけではなく、勉強をしたいわけでもなかったのですが、瞬と一緒にいたいので、真面目に学校に通いました。 |