学校に通い始めると、生来 頭がよくて、勉強したい気持ちも強かった瞬は、すぐに頭角を現わし始めました。
詩を作るのも得意。
古い文献を読むのも熱心。
哲学を語ったりするのも好き。
数学の図形を理解するのも、あっというま。
瞬は、学校始まって以来の秀才、小ルーシ史上最高の神童と言われるようになりました。
本当は、瞬は、とても勉強が好きで、人一倍 努力家だっただけなんですけれどね。

瞬は、哲学や詩作だけでなく、建築や農業といった、もっと生活に密着した分野でも才能を発揮しました。
雪解け水に流されない橋のデザインだの、畑に万遍なく公平に水を流す用水路の仕組みだの、トナカイに畑を荒らされない畑の柵の工夫だの、いろいろなことを次から次に思いついて、そのアイデアの多くが実際に採用されました。
王様の推薦で学校に上がった瞬の意見は、お役人に受け入れられやすかったのです。
その成功は、間接的に王様を褒めることになりましたから。
それに、瞬のアイデアは、本当に みんなの役に立つアイデアでしたから。

瞬は、それらを、自分一人のアイデアとしてではなく、学校のアイデアとして 発表したので、学校の立場も待遇も よくなり、学校の皆も――生徒や先生たちも――瞬に感謝することになりました。
瞬は、そんなふうに、皆の立場や気持ちを考えて振舞うことのできる子でしたので、誰からも好かれていました。
多方面に優れた才能を持つ瞬。
瞬は、やがて、病気や怪我で苦しむ人たちを救う お医者様になる勉強を始めたいと思うようになっていきました。

そんな瞬とは対照的に、氷河は、どちらかというと、頭を使うより身体を使う技の方が得意でした。
詩を作ったり、哲学を語ったりするより、走ったり、飛んだり、泳いだりする体術、剣術、格闘技、船の操り方、馬の操り方等々。
氷河は、戦士、武人としての才能に恵まれていました。

そんなふうに、得意とする分野は違っていましたが、それぞれの得意分野で二人はとても優秀で、二人を学校に通わせる許しを与えた王様の株も 大層上がったのです。
才能のある子供を身分やお金の有無に関わらず学校に通わせる小ルーシの制度は、氷河と瞬のことがきっかけでできた制度なんですよ。

小ルーシでは、18歳になると、希望する男子は 軍隊に入ることができます。
戦争が起こったら、国のために戦い、平時は 王族や王宮の警備をするのが、その仕事。
学校を卒業したら、氷河はきっと軍隊に入るのだろうと、皆が思っていました。
氷河なら いずれ立派な将軍になるだろうと、誰もが信じていたのです。
ところが、氷河は18歳になっても 軍隊には入りませんでした。
『俺が守りたいのは、王宮の門なんかじゃなく、マーマと瞬なんだ』と言って。

その言葉を聞いて、みんなは 驚き呆れましたよ。
軍隊に入ったら、氷河は大出世間違いなしなのに――って。
ですが、氷河は、子供の頃から、自分のしたいことだけをして、したくないことや 興味のないことには見向きもしない子でしたから、マーマと瞬は 氷河の選択と決意は最初から わかっていたでしょう。
氷河が有能な戦士、優れた武人として、その持てる力を使うのは、誰かが 彼の愛する者たちに危害を加えた時だけなのだということを。

普通の生徒学生が通う学校を卒業すると、瞬は、同じ学校の敷地内にある、お医者様になるための別の学校に進みました。
氷河は、自分が卒業した学校で、体術や剣術や馬術を生徒に教える体育と軍学の先生になりました。
“先生”と呼ばれるには、氷河は少々 若すぎましたけれど、小ルーシの国で、その分野で氷河の右に出られる者は、瞬の他には一人もいませんでしたからね。
呼びたくなくても、呼ばれたくなくても、氷河は先生なのでした。






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