俺が生きてるのは、ご都合主義が 大手を振って まかり通る三文ドラマの世界。 これ以上 病院の庭で意地を張っていても時間を無駄にするだけだと悟った俺は、春の小川先生と別れて光が丘公園に向かったんだ。 公園の敷地内にある空調の効いた図書館で 雑誌でも読んで、時間を潰そうと思って。 そしたら、図書館の玄関で ばったり、ナターシャちゃんと そのパパに鉢合わせした。 鉢合わせっても、ナターシャちゃんのパパの目は 俺より頭一つ分くらい高いところにあるし、ナターシャちゃんの目は 俺より頭四つ分くらい低いところにあるから、視線は ほとんど会わなかったんだけどな。 会ったところで、向こうは、数日前に同じケーキ屋に居合わせただけの俺のことなんて 憶えてないだろうし。 春の小川先生も、憶えてないみたいだった。 幸せな人間たちには、俺の存在なんて、所詮 その程度のものなんだ。 ナターシャちゃんが、 「パパ、すごかったネ! おじいちゃんの声が、ちゃんと お姫様の声に聞こえたネ!」 なーんて言ってるところを見ると、絵本の読み聞かせ会の帰りなんだろう。 平日の日中に、娘を絵本の読み聞かせ会に連れてこれるなんて、この金髪イケメンパパ、専業主夫なのかな。 優雅なヒモ生活。羨ましいご身分だ。 医者の春の小川先生が 相当稼いでるんだろう。 皮肉の一つも言ってやりたかったけど、こっちの金髪イケメンパパも 春の小川マーマみたいに、幸せすぎて多少のことには動じないかもしれない。 へたに接触を持てば、逆に、こっちが みじめになるだけかもしれない。 それ以前に、金髪イケメンパパの迫力と ナターシャちゃんの幸せオーラが怖くて近寄れない。 だから、結局、そのまま すれ違い。 それが大人の分別と社会性ってもんだろう。 |