「小人さんたち、しっかり掴まってて!」 叫んで、私は、敵に背を向けて走り出した。 小人さんたちを守らなきゃ。 どんなに早く動けたって、こんなに大きさが違ったら、戦っても小人さんたちが勝てるわけない。 どこか―― せめて、この白い世界の色が変わるどこかまで逃げられれば。 そう思って、私は一生懸命走ったんだけど、悪者たちは あっというまに私を捕まえて――捕まえたっていうのかな。 髪の毛があっちこっちに飛んでる子供と大人の真ん中くらいの人が、右手の指1本で私の頭を押さえつけて、私は それだけで前にも後ろにも一歩も動けなくなっちゃったの。 「おい。なんで逃げるんだよ」 悪者が、私に訊いてくる。 まるで悪者じゃないみたいに。 きっと、この悪者は悪者じゃない振りをしてるんだ。 普通の いい人の振りをして、小人さんたちやナターシャちゃんを苦しめて、悲しませてる。 小人さんたちからナターシャちゃんを奪って、悲しませてる。 パパとマーマを悲しませてる。 「離して! 離してっ! 私のパパとマーマはすごく強いんだから! 悪者なんて、すぐにやっつけちゃうんだから! 離してっ! 小人さんたち、逃げてっ!」 私、頭の中が滅茶苦茶。 怖いのと、悲しいのと、負けるもんかっていう気持ちと、小人さんたちを助けなきゃっていう気持ちが ごちゃ混ぜで、足は動かないけど、手は動かせたから、私は 両腕をぐるぐる回して 大暴れした。 私はすごく暴れたのに、私のげんこつは 悪者には一度も当たらなかった。 「ナターシャちゃん!」 「ナターシャ!」 「おまえのマーマが強いことは よく知ってるけど、パパの方は さほどでもないだろ。氷河は ただの娘に大甘男」 私のマーマ? 私のパパ? 小人さんたちの声。 ナターシャちゃん? ナターシャちゃんが見付かったの? じゃあ、もう私に会いに来てくれないの? これが、さよならなの? 小人さん、行かないで。 行かないで。パパ、マーマ、ナターシャはここダヨ! 私は声に出して叫んだんだろうか。 気が付いた時、私は三ツ星学園の遊戯室にいた。 今は おやつの時間? それとも お昼寝の時間? 遊戯室は静か。誰もいない。 三ツ星学園に天球儀が送られてきて1週間。 私が天球儀に近付くのを邪魔する男の子たちは もういない。 私は、くるくる回る天球儀を いちばん近くで、好きなだけ見ていられる。 「小人さん」 私は小さな声で呼んでみた。 これまでは、私が呼べば、昼でも夜でもすぐに天球儀の輪っかの上に姿を現してくれてた小人さんたちが 来てくれない。 小人さんたちは 悪者にやっつけられちゃったの? それとも、ナターシャちゃんを見付けて、もう私のことはどうでもよくなっちゃったの? せめて、小人さんたちが 元気で生きててくれるかどうかだけでも確かめられたら。 「小人さん、どこ」 誰もいない遊戯室。 魅力を失った天球儀。 「パパ……マーマ……」 私は、天球儀が置いてあるテーブルに突っ伏して、声を出さずに いっぱい泣いた。 |