「瞬。確か、封を切っていないココアがあっただろう。あれを使ってチョコレートを作るというのはどうだ? ココアに蜂蜜を混ぜたり、片栗粉やゼラチンで固めたりすると、低カロリーのチョコレートもどきが作れる。ナターシャ。今日は映画を観るのはやめて、ココアでチョコレートを作る実験をしよう。苦いココアパウダーを甘いチョコレート味のお菓子にする実験だ」
「チョコレートのお菓子を作る実験 !? 」

『ダイエット』で暗くなっていたナターシャの瞳は、『実験』という言葉を聞いた途端に輝きを取り戻した。
ナターシャは、実験が大好きなのだ。
糸電話の実験、割れない巨大シャボン玉を作る実験、絵具を混ぜて新しい色を作る実験、松ぼっくりを広げたり閉じたりする実験、糸で氷を釣る実験。
たとえ失敗しても、どうすれば うまくいくのかを あれこれ試して成功した時の喜びは ひとしお。
中でも大好きな実験が、お料理の実験とカクテル作りの実験だった。
クッキーの生地に色々なものを混ぜて、焼き上がりの色や味を試したり、ジュースとお茶を混ぜて、新しいカクテルを作ろうとしたり。
たとえ期待通りに美味しくできなくても、自分で食べ、飲むこと――を条件に、マーマも飲食物での実験をナターシャに許してくれていた。

「チョコレートとココアは、元の材料は同じ木の実なんだ。同じ木の実の、ねっとり部分がチョコレートの材料、ぱさぱさ部分がココアの材料になる。元は同じだから、味も同じ。チョコレートもココアも砂糖を加えなければ苦いだけだ」
「ココアに お砂糖を入れて、何かを混ぜて固めれば、チョコになるんダネ!」
「そういうことだ」
「ワー! ナターシャ、実験スルー!」

甘いチョコレートを作る実験。
実験にも色々な実験があるが、これほど わくわくする実験があるだろうか。
ナターシャは完全に差別問題提起映画『チョコレートドーナツ』のことを忘れ、『チョコレートドーナツ』のせいでがっかりしたことも忘れ、氷河と一緒にキッチン(実験室)に乗り込んでいった。
そして、苦い純ココアパウダーに、砂糖や蜂蜜、バター、小麦粉、片栗粉、米粉、ゼラチン等、キッチンにある様々なものを混ぜて、チョコレートを作る実験開始。
瞬も、パソコンの電源を落としてから、その実験に合流した。
そうして作った、生チョコもどき、チョコ餅もどき、チョコクッキーもどき。
氷河と瞬の誘導もあったが、意外に食べられないものはできず、実験結果は どれも美味。
チョコレート実験の大成功に、ナターシャは大いに満足したようだった。

なかなかユニークな食感の生チョコもどきも、チョコ餅もどきも、チョコクッキーもどきも、ナターシャには興奮の種。
その上、ナターシャは、お菓子を美味しくするために 想像を絶する量の砂糖が使われている事実も知ることになった。
甘いお菓子やジュースは大好きだが、スマートな女の子でいたいナターシャには、今日の実験は非常に有意義なものだったらしい。

「ワー、チョコのホイップみたいー」
「チョコのグミみたいな お餅ができたッ!」
「お砂糖、こんなに入れるノー」
「もっと入れないと、まだまだ苦いよ! ナターシャ、びっくりダヨ!」
「チョコのクッキー、大成功ー!」
等々、興奮の坩堝状態で2時間超。
興奮が続いたせいで疲れたのか、その日、ナターシャは いつもより1時間も早くお昼寝タイムに突入することになったのである。






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