私たちがナターシャちゃんのところに来て、三日目。
ナターシャちゃんのパパとマーマのお友だちだっていう、星矢さんて人がナターシャちゃんのおうちを訪ねてきた。
沙織さんっていう人のお使いで、春の和菓子のお裾分けだって。

星矢さんを最初に見た時、私たち、ちょっと身構えちゃった。
星矢さんの第一印象が、“私たちの仲間を乱暴に扱うタイプの人”だったから。
時々 いるの。
綺麗なことや 可愛いことに全く価値を感じないで、私たちをゴミみたいに扱う人。
ううん、時々じゃないかもしれない。
人間の四人に一人は、そんなタイプ。

人間の四人に一人は、綺麗なことや 可愛いことに価値があると思っている人。
人間の四人に一人は、綺麗なことや 可愛いことに価値があるとは思っていないけど、価値があると思っている人の価値観を認めている人。
人間の四人に一人は、綺麗なことや 可愛いことを どうでもいいと思っていて、無視する人。
人間の四人に一人は、綺麗なことや 可愛いことに価値はないと思っていて、乱暴に扱う人。

私たちは、星矢さんは四番目のタイプの人かと思って、びくびくしたの。
ナターシャちゃんのパパとマーマのお友だちで、ナターシャちゃんのお友だちでもある人が、そんな人であるはずなかったのにね。
ナターシャちゃんが、
「星矢ちゃん。可愛いでショ。エルピスちゃんっていうの」
って、私たちを紹介すると、星矢チャンは、明るい お陽様みたいな笑顔を、私たちに見せてくれた。
「へえ。春本番って感じだな。ナターシャに似てる。可愛くて、明るくて、元気で」
「うふふ」

星矢チャンに そう言ってもらって、ナターシャちゃんは大喜び。
ナターシャちゃんは、星矢チャンが大好きみたい。
私たちも嬉しかった。
私たちに似てるって言われて、こんなに喜んでくれるナターシャちゃんの側に、自分たちがいられることが。
小さな可愛いナターシャちゃん。
もちろん、ナターシャちゃんは、私たちより ずっと大きいんだけど――私たちはナターシャちゃんが大好きだった。
私たちはいつも、大好きなナターシャちゃんの側にいて、そして、ナターシャちゃんを見詰めてた。


ナターシャちゃんは人間の子供で、毎日 新しいことを覚えて、毎日 初めてのことを経験して、時には失敗なんかもしたりして、泣いたり、笑ったり、怒ったりしてる。
私たちは、そんなナターシャちゃんを 黙って見守ってることしかできないんだけど、そんなナターシャちゃんを見守っていられることが嬉しかった。
ナターシャちゃんが私たちを見て、嬉しそうな笑顔になってくれるのが嬉しかった。
ずっと――いつまでも ずっと、こうしていられたら どんなにいいだろうって、叶わぬ夢を見たりもしたかな。

そんなの無理だってことはわかってるけど。
私たちの最期がどんなものなのかは、私たち、ちゃんと知ってるんだけど。
私たちは、あんまり幸せすぎて、そんな夢を見ずにいられなかったんだと思う。






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