ムスタバルの姿が部屋から消えると、瞬は肩から力を抜き長く吐息した。
「大丈夫? 氷河」
「ああ。すまん。おかげで助かった」
 氷河が微笑って言うのにつられて、瞬も力無い笑みを浮かべる。
「あの人、何を考えてるんだろう。3日経ったら何があるっていうの」
「…さあ。おまえを利用して王になろうとしてるらしいが、どうやって王位を奪うつもりなのかは、俺にもわからん。正攻法でいくタイプじゃないのは確かだから、さぞかし汚い手を使うんだろう」
「うん…」
 俯くように、瞬が頷く。項垂れて、瞬は不安げに呟いた。
「絵梨衣さん……大丈夫かな…」
「王が相沢を蛇だと思い込んでるのなら、当面は大丈夫だろう。王が守ってくれるはずだ。愚鈍そうな男だったが、まがりなりにも王なんだ、それくらいの力はあるだろう」
 ムスタバルの目的がわかった今、どちらにしても氷河たちが力を頼めるのは、死んだ魚のような目をしたあの王しかいない。なんとかここを抜け出し、ムスタバルの企みを王に告げ、元の世界に帰してもらう――採るべき道は、ただ一つになったのだ。
 それでも、氷河は、あの覇気のない王がそれほど便りになるのかどうか、今ひとつ信用がおけなかったのだが。
「氷河…」
 瞬が心許なげな瞳を氷河に向けて、思い詰めたように口を開く。
「蛇…って何のことだと思ってる?」
 瞬を見詰め返して、氷河は、こればかりはきっぱりと断言した。
「おまえのことじゃない」
「……」
 氷河の断言も、しかし、瞬の不安を晴らすことはできなかったらしい。
 瞬の瞳の不安の色は、深みを増すばかりだった。







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