「いったーい!」 急に足元が確かになったせいでつんのめり、絵梨衣はアスファルトの道に膝を打ちつけた。 「もう、なんなのよっ。あったまくるなあっ!」 擦りむいた膝を気にしながら立ち上がろうとして顔をあげると、そこには絵梨衣を見降ろしている城戸氷河と雪代瞬の驚いたような顔があった。 「あ…」 一瞬、絵梨衣は、自分が長い白昼夢を見ていたのではないかと思った。有名な聖和高校の二人組との思いがけない邂逅に浮かれて、自分は勝手に妄想を膨らませてしまっていただけではなかったのか――と。 突然目の前でスッ転んだ女の子の奇声に、聖和の二人組がびっくりしている――それは、そんなシチュエーションだったのだ。 「あっ…あの…」 思わずどもってしまった絵梨衣に、瞬が心配そうに手を差しのべてくる。 「大丈夫ですか。絵梨衣さん」 「え…」 瞬の口から自分の名が発せられるのを聞いて、絵梨衣はぱっと破顔した。 あれは夢ではない。そして、自分たちは元の世界に戻ってきた。嬉しさが、実感となって絵梨衣の中に広がっていく。 絵梨衣は、瞬の手を借りて立ちあがった。 「擦りむいただけだろ。血も出てないし、大丈夫だよ、瞬」 氷河は絵梨衣自身より、絵梨衣を心配している瞬の方を気遣っている。勝手に"大丈夫"と決めつけられてしまった絵梨衣は、だが、腹も立たなかった。 あまり広くないアスファルト道には、"数日前"と同じ白いクーペが停めてある。まるでそこだけ時間の流れが止まっていたかのように、辺りの風景は"数日前"と変わっていなかった。 「え…と、どこかの喫茶店にでも入りましょうか」 瞬の提案に、絵梨衣はこくこくと頷いた。 |