母にも告げたことのないその思い出を、僕が氷河――高生加【たかおか】氷河――に語ったのは、小学校六年生の時。 その時にはもう氷河は、僕にとって、心の中にずっとしまっておいた秘密を打ち明けてでも親しさを増したいと思うような親友になっていた。 「自分が始めたくて始めたわけでもない戦争で死ぬなんて、誰だってヤだろーけど……瞬の父さんて、瞬とおんなじで喧嘩とか争い事とか嫌いだったんだろーな」 笑いもせず、疑念の言葉も口にせず、氷河はそう言った。 「なんか、俺と正反対だよな。俺だったらきっと、次は兵士なんかじゃなく将軍かなんかに生まれ変わって、今度こそ勝ってやるー! とか思ってくたばるんだぜ」 小学校の校庭の鉄棒の前だった。初秋の夕暮れのオレンジ色の光の中に、鉄棒と僕と氷河の影が黒く長くのびていた。放課後の校庭には、僕と氷河の他にはトンボが二、三匹飛んでいるきりで――。 「瞬、おまえだったらどうだ? 生まれ変われるなら、何に生まれ変わりたい?」 氷河にそう尋ねられ、僕は少し考え込んでから、ぽつりと言った。 「氷河のお母さん…」 僕の答えを聞くと氷河は一瞬目を見開き、だが、何も言わず唇を引き結んだ。突然いちばん高い鉄棒に飛びついて、勢いよく脚掛け前転を四、五回続けてから、鉄棒に脚を掛けたまま、高いところから氷河は僕に言った。 「いいよ、俺、今のままでも。瞬が俺の母さんに生まれ変わったってさ、早く死んじゃったら何にもなんない。いいよ。今のままの方が」 「……」 そう言ってくれた氷河が、僕は好きだった。 |