それからすぐに俺は職を探し始めた。沢渡の家との決別を決意した今、自分で金を稼ぐ術を手に入れることは、まさに急務だった。それができなくては、早雪さんを迎えに行くこともできない。俺は、ある程度、将来の世界の経済状勢が記憶に残っていたし、何より運命が俺に味方してくれると信じていたから、生まれてこの方一度も発揮したことのない積極性と精力を傾けて、仕事探しという仕事に取り組んだ。 そしてぶち当たったのが、米国資本生命保険会社の日本支社――親父のS生命保険の前身たる会社だった。三年前にできたばかりで、社員もまだ五十名ほどしかいない小さな会社だったが、それでも大蔵省の認可を受けた金融機関の一つである。幸い、その会社の人事部に大学時代の俺を知る奴がいて、俺を恐ろしく切れる男だと自分の上司に口添えしてくれたらしい。俺はそうして、二十年後には俺のものになる会社の企画課長席に迎え入れられることになった。 それから俺は小さな家を一軒探し、家具を揃え、早雪さんを迎える準備を整えた。 そして半年後――庭の桔梗が露を含んでいたから、秋になっていたと思う。俺は沢渡の家に行き、絶縁を申し出、その足で早雪さんのいる折橋家に向かった。 彼女を――早雪さんを、俺の妻にするために。 今の俺と折橋建設の社長令嬢とでは釣り合いも何もあったものじゃないということはわかっていたが、ちんたら自分の地歩固めをしているうちに、早雪さんを他の男に取られてしまったら、元も子もない。そんな事態は避けたかったし、何より俺は、運命が俺に味方してくれることを信じていた。 運命を味方につけた俺は、そして、それから更に半年の後、早雪を妻に迎えることができたんだ。 |