その日から瞬は、張りつめた糸が切れそうになると、俺の許に来て、俺と夜を過ごすようになった。 深夜俺の許にしのんでくる瞬に気付き、氷河が抑えようのない嫉妬に身を焦がしていることは知っていたが、俺は瞬に注意を促しもしなかった。二人の関係が氷河に知れたとなれば、瞬はそれこそ自殺でもしかねない。氷河を傷付けることを、瞬はそれほどに恐れていた。 俺の許にしのんでくる瞬は、しかし、俺に泣き言や愚痴を言ったりするわけじゃない。瞬はいつも何も言わず、俺が手を差し伸べるのを待っている。そして、差し伸べられた手に引きつけられるように、俺に身体を委ねてくるんだ。 瞬は、傷付いた羽を癒し再び飛ぶことができるようになると、飼い主の許から飛びたっていく小鳥のようだった。だが、その羽は脆く傷付きやすく、すぐにまた俺の許に癒しを求めて舞い戻ってくる。 そんな夜を幾度となく過ごしたのに、だが、氷河を思う瞬の心は頑固なまでに変わることがなくて――。 大学卒業を間近に控えたある日、氷河の海外留学の話を俺に聞かされた時も、瞬は『氷河に必要なキャリアだから』と、ものわかりよく頷いてみせた。俺が――氷河が――ロスに発った時も、ぎこちない笑みを浮かべて黙って送り出してくれた。 高生加氷河だった時には、俺は知らなかったんだ。俺が米国に発った日の夜、瞬が親父の懐に飛び込んで、自分から愛撫をせがみ、気を失うまで親父を求め続けていたことなんて。 俺はそんな瞬から目を離せなくて、半ば強制的に俺の会社に入社させ、社長秘書室に配属させた。 時折俺が伝える氷河の近況に――留学中、氷河はただの一度も父親に連絡を入れてこなかったから、それは俺自身の記憶なんだが――安心しながら心を乱す瞬を、それでもいつも側で見ていられることが、俺の幸福だった。 早雪と暮らしていた時とは違う、それは、満ちたりないことの幸福とでも言うべきものだったろう。いつ壊れるか、いつ消えるのかわからないような、刃物の上でぎりぎりのバランスを保ちながら続けているような毎日だったから、一層俺は瞬が愛しかったのだと思う。 高生加基臣の死が近付いていることを知っていたからなおさら、俺は、どんな強引なことをしてでも瞬を自分の側に置こうとした。 |