ナキアの涙が乾くと、ナディンは、 「何か飲み物を持ってきますね」 と言って駆けていってしまった。 イルラの手を借りて立ちあがり席に戻ったナキアは、その後ろ姿を見送ってから、ぐるりと仲間たちの顔を見渡した。どんなに無様な真似をしでかしても、仲間たちがナキアを軽蔑したり呆れたりしないことは、もうわかっていた。 ナキアは自然に、再び、この仲間たちの中に戻っていけたのである。 「はぁーっ」 声に出して深呼吸を一つし、ナキアは仲間たちに笑顔を作ってみせた。まだ少しぎこちない笑みにはなってしまったのだが。 「みっともないとこ見せてごめんなさい。なんだか私よりナディンの方がずっと大人みたいだったわね。ナディンって、確かまだ――」 「十二」 聞きようによっては怒っているようにもとれるナイドのぶっきらぼうな答えで、ナキアは自分の記憶に間違いのないことを確認できた。 「十二……たった十二歳で、そんなに苦しい恋を知ってるの…」 シュメールの中で最もあどけないと思っていた少年が、束の間見せた大人びた表情。あんな目ができるほど、ナディンを大人にしてしまった彼の恋。それがどんなものなのか、ナキアは聞きたいと思った。そしてまた、聞いてはいけないとも思った。 が、ナキアの感嘆めいた呟きを、ナイドは即座に否定したのである。 「ナディンは恋など知らない」 と。 「え? でも……」 納得できず反駁しかけたナキアの言葉を、イルラが遮る。 「あれは――あの子の持って生まれた性分、才能なんだよ。ナディンは思いやりの天才なんだ。おそらく神は、シュメールの力だけでなく、人の心を癒す手をもナディンに授けられたんだろう」 「……」 そうまで言われても、ナキアは納得できなかった。釈然としなかった。人を思いやる心とは、神に与えられる才能なのだろうか。 (そんなの、才能じゃなくて、経験で身につけるものなんじゃないかなぁ…) つい考えこんでしまったナキアの目の前に、蜂蜜水の入った青い器がすっと差しだされる。 「ナキアさん、どうぞ」 悲しみも苦しみも知らないように澄みきったナディンの水色の瞳が、そこにあった。 |