バーニは、精神状態というよりは、体調の方がすぐれないようだった。イルラたちがキシュ軍に向けて発つのを四人で見送った後、執務室に戻ろうとした彼の足元が覚束ない。彼は、額に油汗を浮かべて、回廊の手擦りにぶつかるようによろめいた。
「陛下!?」
 慌てて彼の側に駆け寄ったナディンを、しかし、バーニはどういうわけか力任せに突き飛ばした。
 ナディンのその体を、ナイドが背中から受けとめる。
(バーニ?)
 彼らしからぬ乱暴な振舞いに、ナキアは仰天した。
 ナディンがびっくりしたように瞳を見開いて、具合いの悪そうな王を見詰める。
「陛下…どうなさったんですか…」
 ためらいがちに――否、ナディンの声は明確に怯えていた。
 掠れ気味のナディンの声に、バーニがはっと我に返ったように顔をあげる。具合いの悪い自分よりも真っ青な頬をしているナディンに、彼はひどく慌てた。
「す…すまない、ナディン。怯えないでくれ。私は大丈夫だ。しばらく休めばすぐ元通りになる。少し…ほんの少し、気がたっていたんだ。侍従を呼んでくれ。しばらく横になる…」
「は…はい…!」
 ナディンが侍従を呼ぶために、王の居室に向かって駆けだす。
 辛そうに手擦りにもたれかかっているバーニの側に近寄っていいものかどうか迷い、窺うように傍らに立つナイドの顔を見あげたナキアは、ぎくりと体を強張らせた。
 辛そうに眉根を寄せているバーニを一見無表情に見やっているナイドの唇が、微かに歪み微笑している。
 その微笑の意味が理解できず、ナキアはその場に立ちすくんだ。






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