それから一週間後、ブラックたちの調査結果が出揃った。
その報告書を見て、氷河は思わずうなってしまったのである。
四人が四人とも、前野社長が死亡した夜のアリバイはあやふや、しかも、四人が四人とも前野社長殺害の動機だけは腐るほど持っていたのだ。

前野社長は仕事の面でも対人関係においても非常に潔癖な人間だったのだが、そのため融通がきかず、他人の過去のミスをいつまでも忘れずにいるタイプで、部下あるいは同僚として共に働くには実にやりにくい男だったらしい。
一度でも彼の前でミスを犯した人間はまず浮かびあがれない――となれば、彼の周りの人間が皆、彼を憎んでいても仕方のないことだったろう。
なにしろ、人間というものはミスを犯すようにできている生き物なのだから。

「曲がったことが嫌いなだけならともかく、絶対に過去の過ちを忘れてくれないような奴、誰だって好きにはなれないだろう。自分だけが正しいと信じている人間は手におえないもんだ」
「我々は堂々と会社の人事部や広報室に聞いてまわったんだが、そこの社員からして前野社長の悪口を言っていたからな。あとは推して知るべし、だ」
「あれじゃあ、今回調査した四人以外にも怪しい奴はいくらでもいそうだったなー。奴の味方は、奴の女房の夫だけ――って感じだった」
「瞬、お茶まだかーっ !? 」
報告は、順に、B・ドラゴン、B・スワン、B・ペガサス、B・アンドロメダ。

お茶を運んできてセンターテーブルの上にカップを並べるホームズと、肘掛け椅子にふんぞりかえってそのカップに手を伸ばすドクター・ワトスンとを見比べ、B・ドラゴンとB・スワンは微かに顔を歪ませた。
放浪の仕事に出ている一輝に瞬の身辺警護を任されたから、この探偵事務所に籍を置いている彼等には、瞬ではなく氷河の指図を仰ぐのには少なからぬ抵抗があったのだ。
B・ペガサスとB・アンドロメダは、あまりそういうことには頓着していないようだったが。

「でも、何ひとつ物的証拠は出なかったんでしょう? やっぱりただの事故だったんですよ」
ドクター・ワトスンに事務所を牛耳られていることに気を悪くした様子もなくにこにこしながら言う瞬に、B・ドラゴンとB・スワンは細く長く嘆息した。






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