氷河姫 III






氷河姫は、相変わらず瞬王子の許で幸せに暮していました。
毎朝目覚めると、やわらかく暖かい陽射しの中で、
「氷河姫、おはようございます。今日も素敵なお天気ですね」
と、朝の陽射しよりもやわらかく暖かく微笑む瞬王子が、氷河姫の腕の中にいるのです。
本当に、こんな幸せなことはありません。
氷河姫は毎日、『俺は今日も世界でいちばん幸せな男だ』と実感しながら、それはそれは有意義なふーふ生活を送っていたのです。

さて。
氷河姫の嫁いだチューリップ王国は、とても美しいけれど、とても小さな国でした。
東西南北を強力な国々に囲まれているチューリップ王国が、他国からの侵略を免れて長く独立を保てていたのは、戦乱に明け暮れる他の国々がいざという時に逃げ込める平和な国の存在を欲していたからでした。

今現在に限って言うなら、一輝国王の義侠心と押しの強さ、瞬王子の外交手腕――その二つが見事なバランスをもって、国の平和を守っているからだったでしょう。
他国で、何か きな臭いトラブルが発生すると、その国は瞬王子に出馬を願うのです。
瞬王子が戦争や内紛の火種を抱えている王様や将軍のところに行って、戦うことの愚を諭し、にっこりと微笑むと、倣岸な王様も無骨な将軍もすぐに つられて微笑み返してしまうのでした。

瞬王子がそんな用事で外国の宮廷に出かけていくことは、年に2回もありませんでしたが、そんな時、氷河姫はチューリップ王国のお城の奥にある部屋で、瞬王子の身を心配しているのでした。
瞬王子は、チューリップ王国でいちばん可憐なチューリップの花の千倍も可憐なのですから、氷河姫の目の届かない外国の宮廷で、変な輩が瞬王子に岡惚れしないとも限りません。
氷河姫はそれがとてもとても心配だったのです。

瞬王子は氷河姫が心細がらないようにと、いつも手際よく問題を片付けて、二、三日で帰ってきてくれるのが常でしたが、そんなことで氷河姫の不安は簡単には消えません。
外国の宮廷から瞬王子が戻ってくると、氷河姫はその夜は、それこそ翌朝 瞬王子の足腰が立たなくなるくらい情熱的に、瞬王子を可愛がってあげるのでした。
氷河姫と離れていた数日間、瞬王子も寂しい思いをしていたのでしょう。
そんな夜には、瞬王子も、いつもよりずっと必死に氷河姫にしがみついてくるのです。
可愛い瞬王子にそんな健気な真似をされてしまったら、氷河姫もそうそう冷静ではいられません。
瞬王子が外国から帰国した翌日の、瞬王子のお目覚めは午後になってから。
それが、チューリップ王国のお城の女官たちの暗黙の了解でした。






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