「“働かざる者、食うべからず”です! 今日は、菜の花を摘みに行きます!」 翌日も瞬は元気だった。 昨日の収穫――氷河とアイザックは結局、カゴ一杯どころか一粒のいちごも摘めなかった――を目の当たりにした瞬は、この国で生きていくためにしなければならない様々の雑事全般を、この二人に教えてやらなければならないという使命感に目覚めてしまったらしい。 「瞬……。こういう仕事は俺には向いていないことを、いい加減でわかってくれないか」 「氷河は! ミーアたちのお カゴを、氷河の手に押しつけながら、瞬が氷河に詰問する。 「――菜の花摘みの方が好きです……」 瞬とは対照的に、氷河の方は全く元気がない。 「だと思いました!」 我が意を得たとばかりに、瞬はにっこりと微笑した。 「氷河は今日は、カゴ5つ分がノルマです。さぼったら晩ごはん抜きです!」 「カゴ5つ……」 一日の労働に取りかかる前から、氷河は既にぐったりしていた。 菜の花畑は、城の南側にある。 まだ花を開いていない淡緑色のものは野菜として、その種子は油性原料として、この国では住・食の面で重要な植物なのだが、それ以前に鑑賞用として、瞬はその丘の斜面を愛好していた。 「アイザック。菜の花の摘み方、教えてあげます。僕たち、丘の下の方から始めましょう。氷河! 氷河は上の方から摘んできてください! 真面目に働くんですよ!」 昨日の行状ですっかり信用を失ってしまった氷河に対する瞬の風当たりは、かなり手厳しい。 一生懸命働いて、カゴ5つを一杯にすれば、多分瞬は機嫌を直してくれるだろうと素朴に考えて、氷河はその仕事に今日は真剣に取り組むことにした。 彼は、少々油断していたのである。 アイザックは武器を持ってはいないし、有事の際には、瞬は瞬自身の力でそれを切り抜けることもできるだろう。 これまで幾らでもあったあらゆる機会にも事に及ばなかったアイザックが、今更瞬の身に害を及ぼそうとするはずがない――と。 彼自身が昨日、アイザックを刺激してしまったことに、氷河は気付いていなかった。 そしてまた、何者かが自国の民に危害を加えることを避けるためになら 自らの力を使うことはできても、瞬には、友人を傷付けるために力を使うことはできないのだということにも。 「瞬!」 氷河がその事実に気付いたのは、彼が、いたって勤勉にカゴ5つ分の労働を終えた後だった。 見渡すほどに広い菜の花畑から、瞬とその友人の姿は忽然と消え失せてしまっていたのである。 |