FORMURA 1 は、1シーズン全16戦ある。
一輝に2連勝を許すことになった事実には何の焦りも感じていなかったが、ここに至って氷河は、瞬の走りに疑問を抱き始めていた。
体力の劣っているドライバーの走りとして考えるなら、攻撃より防御に重きを置く瞬の走法は実にリーズナブルなものであるが、その見事なテクニックは、一輝の前で──すなわち、レースに参加する26台のマシンの先頭で──発揮されてもいいはずである。
F1に参加する者は誰もが世界一の称号を得たいと望むはずなのに、そして、瞬のテクニックがあれば、それは実現可能な夢であるはずなのに、瞬の中には自分が優勝したいという気持ちは一かけらも無いように見受けられるのだ。

氷河のその疑念は、第3戦サンマリノグランプリにおいて、明確に裏打ちされた。
ポール・ポジション一輝、2位グリッド瞬、3位グリッド氷河でスタートしたこのレースは、その中盤までは、第1戦、第2戦と全く同じ展開だった。
それまで首位を走っていた一輝が、34周目の第1コーナーで、セミATのトラブルのために、リタイアしてしまうまでは。

氷河はずっと瞬のすぐ後ろにつけていたのだが、ピットウォール前で『 IKKI OUT 』のピットサインを見せられた途端、瞬の鉄壁の防御に隙が見えた。
無論、氷河とてプロである。
その隙を突いて、彼は即座に瞬をオーバーテイクした。
そして、その時氷河は、瞬が自らの勝利のために走っているのではないということに気付いたのだった。
一輝のリタイアが、瞬にはかなりのショックだったらしい。
そのレースで、瞬は氷河以外にも4台のマシンのオーバーテイクを許してしまったのだった。






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