もともと自尊心の強い子なのだと思う。
だからこそ潔白な自分を求めもし、そのために、兄の情愛をさえ無為に受け入れることもできなかった。
しかし、シュンは知らないのだ。
この城の外の世界も、自分の内なる世界も。
そんな人間の持つプライドは、根拠のないプライドである。
少々きつかったかもしれないが、ユーグがシュンに告げた言葉の半ば以上は本音だった。
何よりもまず生きていてほしい。
だが、生きているだけでは人は輝かないのだ。
カタリ派の教義にがんじがらめにされていたら、シュンは遠からず死を選んでいただろう。
根拠のないカタリ派完徳者としてのプライドを守るために。
棄教の屈辱を逃れ、汚れない自分のまま神の御許に旅立つ――兄という強大な保護者を失った無力な子供には、それはこの上なく誇らしい死となっていたに違いない。
しかし、実は、その死にすら意義は全くないのである。
それはただ、安住の場を失った非力な子供の逃避でしかない。
だから、何よりもまず、シュンからカタリ派完徳者としての資格を奪い取ることが必要だった――。
(嘘をつけ。おまえはただあの子を抱きたかっただけだ)
ユーグは、自分で自分の偽善を嘲笑った。
どちらも本音だった。だから仕方がない。
いずれにしても、シュンは、生きることを決意してくれたらしい。
それだけは――その事実だけが――シュンを傷付けたユーグの獣欲の後悔を慰めてくれるものだった。
ナルボンヌ門に面した高い塔の見張り台から、ユーグはぼんやりと堅牢な二重の城壁の外と内とを見降ろした。
城壁の向こうにオード川の流れが見える。
城塞内に入りきらなかった領主や騎士たちの張った天幕が、その河岸に相当数残っていた。
見張り台のすぐ下では、司令官直属の兵たちが次の闘いに向けての準備に余念がない。
投石機の移動台が二十台近く並んでいるその横で、武具の手入れをする騎士たち――。
(俺たちは、ろくに信じてもいない信仰と、名誉や領地を求める欲のために、よってたかってあの子の幸せを打ち砕いたんだ……)
憎まれ軽蔑されても仕方のないことなのだろう。
憎まれ役を演じることくらい、大した重荷ではないはずだった。
それでも――。
(あの子にもっと優しくしてやって、あの子に少しでも愛してもらえたなら――)
どれほど幸福な思いを味わえるだろうかと考えてしまうことは止められなかった。
シュンの部屋の扉を開けたままにしてきた。
自分の置かれている状況を正しく認識できれば、無思慮なことをする子ではないと信じて。
城塞内のあちこちには見張りが立てられているし、シュンがさほど自由に動きまわることができるとも思えなかったが、決してシュンの意思を捩じ伏せて閉じ込めているわけではないのだと、それだけでも伝えたくて。
(ただの間抜けだと思われていたりして、な……)
それもありえないことではない。
ユーグは苦笑した。少々切ない感のある苦笑ではあったが。






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