エンデュミオンに会う以前の自分に戻ろう──と、シュンは決意したのである。
自分の世界にヘリオス以外の存在を置かず、愛するのも愛されるのもヘリオスだけ、言葉を交わす相手すらヘリオスしかいなかった頃の自分に戻ろう──と。
エンデュミオンが自分にとって危険な存在だということに、シュンは今になってようやく気付いた。
自分と同じ苦しみを苦しんでくれるかもしれない人、自分を真に理解してくれるかもしれない人、しかも、自分を愛していると言ってくれる神でない存在──。
エンデュミオンと共にいる時を これ以上 重ねていたら、いつか自分は、自分のために すべてを捨てたヘリオスを裏切ってしまうかもしれない──。
シュンは、それが恐かった。

エンデュミオンがセレネの恋人だったなら、シュンがエンデュミオンを慕うことをヘリオスも許してくれるかもしれないが、たとえエンデュミオンを慕うシュンの心が恋にならなくても、シュンを愛していると言い切る男の側にシュンがいることをヘリオスが快く思うはずがない。
太陽神としての栄光と力を恋のために放棄した神が、もしその恋人に裏切られたりしたら、あの誇り高い神はいったいどうなってしまうだろう。
オリュンポスの神々はどう思うだろう。
恋のためにすべてを捨てたというのに、その恋を失った神――ヘリオスが、アポロンたちにそんなふうに侮られることなど、シュンには到底耐えられないことだった。
(こんなこと考えること自体、ヘリオスヘの裏切りになる。考えちゃいけない。エンデュのことなんか思っちゃいけない。僕はヘリオスを好きで、ヘリオス以外の人なんか好きになったりしない……!)

シュンは毎日毎日、自分に言いきかせた。
そして、自分にそう言いきかせるたび、つらい思いを味わった。
エンデュミオンに会わない日々が苦しくてたまらないのに、エンデュミオンの眼や言葉、仕草を思い出すだけで、胸がときめく。
『おまえを抱いている男がヘリオスなどではなく、この俺だったらと、そのことしか考えられなかった……!』
ヘリオスだけを愛していると自身に言いきかせる側から、エンデュミオンの言葉を思い出し、シュンの胸は熱く高鳴った。
そして、そんな思いに囚われている自分に気付いて、唇を噛む。
シュンはエンデュミオンに会いたかった。
エンデュミオンの声を聞きたかった。
あの青い色の瞳に見詰められたかった。
エンデュミオンに抱かれ、我を忘れる自分を思い描きさえした。

(エンデュ……!)
ヘリオポリスの最奥にある小部屋で、シュンとシュンの心はもがき、足掻き、血を流し続けた。
そして、シュンは、自分がヘリオスを裏切ってしまう前に自分に与えられた永遠を終わらせてしまいたい──と、シュンは願うようになっていったのである。






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