「あの……氷河が僕を……」 瞬は、どこか間違った恥じらいを全面展開である。 「君を?」 そして、爛々と輝くS・Y女史の瞳。 適切な言葉がなかなか思いつかないのか、瞬は幾度も小首をかしげながら、やっと言葉を紡ぎ出した。 「え…と、氷河が僕をぎしぎし揺らす数」 「…………」 「…………」 世の中に、何が楽しくて、そんな数を数える人間が存在するのだろーか。 化け物にならずに済んだ氷河も、そして、さすがのS・Y女史も、今度ばかりは盛大に絶句してしまったのである。 瞬は――瞬だけが、自分の毎晩の習慣を、少しも変だと認識してはいないようだった。 当然である。 誰しも、“普通”の基準は自身の内にあるのだから。 「僕、毎晩ちゃんと数えてるんです。氷河が、僕の中にくるでしょ。それから、数え始めるの。氷河がいっかーい、氷河がにかーい、って。羊さんとおんなじ。数えているうちに眠れるの。え…と、昨日は、1回目が32回、2回目が28回、3回目が46回、でもって、4回目がすごく長くて、104回。僕、眠くって、飽きちゃって、数え終わる前に眠っちゃった」 ここで瞬に、『てへ♪』と小さく舌を出して微笑まれた氷河の立場は、残酷なまでに悲惨である。 事は、そんな回数の暴露がどうこうという次元の問題ではない。 氷河は、これまで、『瞬は良すぎて失神しているのだ』と、信じていたのである。 それで、悦に入っていたのである。 自信に満ちていたのである。 それが何ということだろう。 『数え飽きて眠っちゃった』とは――! 呆然自失の氷河に、更に、S・Y女史の追い討ちがかかる。 「ふぅん。そうなの。なーんだ、失神してるわけじゃないんだ。飽きて眠っちゃうだけなんだ」 他人に鼻で笑われて黙っていられる氷河ではない。 平生の氷河は、決してそんな男ではない。 しかし――。 今回ばかりは。 今回ばかりは――! 彼は、結局、目的を果たしたS・Y女史が意気揚揚とインタビュールームを出ていった後も、立ち直ることはできなかったのである。 |