氷河姫が瞬王子の許に嫁いで2年の月日があっという間に過ぎ去りました。 瞬王子の国はとても小さい国でしたが、とても綺麗な国でしたし、氷河姫が迎えられたお城も、これまた小規模ながらとても可愛らしく美しい白亜の城。 春にはチューリップ、夏には薔薇、秋にはサフラン、冬には純白の雪が咲き乱れる美しい庭園もありました。 もっとも、氷河姫にとって瞬王子の国で一番美しく可憐な花は、瞬王子その人ではありましたが。 瞬王子は、初恋の人でもある氷河姫をそれはそれは大切にしてくれました。 もちろん氷河姫も、瞬王子をそれはそれは可愛がりました。毎日自分たちの許を訪れることを忘れない朝を憎むくらいに。 愛し合い信じ合う二人は、まさに理想のカップル。 城中の者が、国民のすべてが、体格の良すぎる氷河姫に不審を抱きながらも、仲むつまじい王子夫妻を誇りに思い、微笑ましく見詰めていました。 ただ一人、瞬王子の兄君を除いて。 瞬王子の兄君・一輝国王は、氷河姫と同い年の26歳。 瞬王子は今年16歳になりましたから、ちょうど10歳違いの兄弟ということになります。 一輝国王と瞬王子のご両親は、瞬王子がまだ赤ちゃんだった頃に亡くなっていました。一輝国王は、両親の顔さえ憶えていない瞬王子を、亡くなった両親の分と自分の分、合わせて三人分の愛情を注いでここまで育ててきたのでした。 瞬王子の幸せだけが、私人としての一輝国王の願いでした。 ですから、瞬王子が氷河姫との結婚を望んだ時も、それが瞬王子の幸せにつながるならと考えて、反対もしませんでした。本当は、花婿より10歳も年上の売れ残りの姫君なんて、可愛い弟にふさわしい花嫁だとは到底思えなかったのですが。 瞬王子が氷河姫を連れてお城に戻ってきた時から、一輝国王は氷河姫に胡散臭いものを感じていました。イスラムの女性のたしなみだと言って、氷河姫はシルクのヴェールで顔も身体も隠していましたが、その身長だけは隠すことはできません。 瞬王子がいくらまだ成人していないとはいえ、花婿よりも30センチ近く背の高い花嫁なんてあるでしょうか。 声は低いし、態度は横柄だし、その歩き方の乱暴なこと! 育った環境や教育体制・躾制度が違うにしても、あまりといえばあんまりです。 瞬王子と氷河姫が並んで立っていたら、まるで樫の木の根元にチューリップの花が咲いているようにしか見えないのです。 もちろん、一輝国王は、瞬王子が瞬王子より綺麗で可愛いお嫁さんを連れてくるなんてことは初めから――昔から――期待してはいませんでした。 瞬王子は世界でいちばん綺麗で可愛い王子様。 その瞬王子より綺麗で可愛いお姫様がそうそういるはずがありません。 ですから、瞬王子の花嫁は、外見はともかく、気立てが良くて、政治のことに口出しせず、瞬王子と同じくらい心優しいお姫様ならばそれで良しとしよう――と、一輝国王はずっと考えていたのです。 なのに、氷河姫ときたら! デカいのは、身体ばかりではありません。態度から、口のきき方から、靴のサイズまでデカいのです。 一輝国王は最初から、氷河姫が気に入りませんでした。 目に入れても痛くないほど可愛いがってきた弟を、自分と大して変わらない体格と性格の男――もとい、姫君――に奪われた近親憎悪的な怒りも加わって、瞬王子のお城の嫁・小舅関係は最悪でした。 |