ハーデスの力の片鱗が、瞬の中に残っている――のだそうだった。 それは危険なことなのだ――と、自らを神だと名乗るモノたちが言った。 この少年の脆弱な心は、いつまた冥界の王の邪心に支配されてしまうかもしれないから――と。 (脆弱? 瞬の心が?) (そうじゃない。そうじゃないんだろう?) 神々は、瞬を――人間を――信じていないのだ。 神の力を持ってしまった人間――を怖れているのだ。 もし、あの闘いで瞬が死に、純粋にハーデスのみの存在がこの世界に残ったのだったとしたら、神々は、自分たちの仲間であるハーデスを封じるようなことをしただろうか。 そうはしなかっただろう。 神々が怖れているのは、神の力を持ってしまった人間――人間という存在――なのだ。 アテナでさえ、瞬の味方ではなかった。 『もし、瞬がハーデスの意思に支配され、この地上を欲しいと言い出した時、あなたは瞬を殺すことが出来て?』 『それは……もちろん……』 氷河は確かに言い澱みはしたが、しかし、彼はアテナに頷こうとしたのだ。 だが、そんな氷河の言葉も首肯をも、アテナは遮った。 『無理よ。おそらく、一輝にも、もうそれは無理。紫龍や星矢たちも――。瞬は優しすぎたから。誰もが瞬を愛しているから。だから、瞬と接したことのある人間は、誰も瞬を傷付けることはできないの。本来邪悪と闘う立場にある聖闘士たちのほとんどが、瞬の前では無力なの。まして、あなたは……』 『だからと言って――!』 氷河の反駁は、神と名乗るモノたちに、冷たく拒絶された。 |