と、ここまでは比較的順調に(?)事が進んだのだが。 「さて、次は一輝か」 そう呟いてから、紫龍は我知らず顔を歪めた。 一輝とアイスクリーム。 アイスクリームに一輝。 アイスクリームを食べる一輝。 一輝に食べられるアイスクリーム。 何をどう表現したところで、不自然は不自然、不気味は不気味、似合わないものは似合わない。 いったい、あの炎の男が食べるアイスクリームとは、どんなものなのだろう。 デザート工房“樹庵”を出て新宿駅に向かう紫龍の足取りは、この空前にして絶後の超難題に捕らわれて次第に重くなっていった。 が。 「そういえば、以前、老師にお聞きしたことがある」 彼は、信頼できる友だけでなく、素晴らしい師にも恵まれていたのだ。 「北九州の小倉に、アイスクリーム天ぷらで有名な、確か……“竹壺”とかいう天ぷら屋があると」 持つべきものは信頼できる友と情報通の師。 老師の教えの有難さに胸の中で深く感謝し、行く手に一筋の光明を見い出した紫龍は、一路九州は小倉へと向かったのだった。 ところが。 何ということだろう。 幾度か道に迷いつつ、やっと辿り着いた天ぷら屋“竹壺”で、紫龍は、またしても思いがけない障壁にぶち当たってしまったのである。 “竹壺”の店主が数日前に利き腕を怪我して、店は現在休業状態、当然アイスクリーム天ぷらも作ることはできないというのだ。 「しかし、それでは困るのだ」 そう言われてもできないものはできるわけがない。 「悪いねー、にーちゃん。でも、そーゆーわけだから」 と、店員に追い返されそうになった紫龍は、しかし、友情のために食い下がった。 「アイスクリーム天ぷらを作れる御仁は店主だけなのか?」 「そりゃあ、作り方だけなら俺たち店員も師匠を見て知ってるけどさぁ、俺たちはまだまだ半人前で、到底売り物になるようなもんは作れないんだ。中途半端なもんを出したら店の信用にかかわるし、店に出せるアイスクリーム天ぷらを揚げられるようになるまでには、余程の修行を積まないと」 店員のその言葉にも、熱い友情に燃えた紫龍はひるまない。 「では、店主に頼んでもらえないだろうか。俺にアイスクリーム天ぷらを作る修行を受けさせてもらえないか――と」 「なにぃ!?」 紫龍を追い返そうとしていた店員は、紫龍のその言葉に呆れつつも、その言葉を店の奥にいた店主に伝えることだけはしてくれた。 それを聞いた店主――店主は、紫龍の友情に打たれたのか、はたまた怪我をして商売ができず暇を持て余していたのか(ここは、ストーリーの都合上、当然前者でなくてはならないのだが)紫龍の修行志願を快く受け入れてくれたのである。 そういうわけで、紫龍は、アイスクリーム天ぷら修行に挑むことになった。 だが、アイスクリーム天ぷらを揚げる修行は、想像を絶するほどに厳しいものだった。この点、入試をクリアすれば遊んでいても卒業できる某国の大学などとは訳が違う。 しかし、紫龍は、友の友情を心の支えに、その厳しい修行を耐え抜いた。 そうして。 寝食を惜しんで修行を積むこと、三ヶ月。 ついに、紫龍は、 「うむ、見事だ…! これなら俺の作る天ぷらと比べても全く遜色がない」 という、店主の言葉を手に入れることができたのである。 「ありがとう、店主。みな、店主のご指導のおかげです」 感動の涙に泣き濡れて礼を告げる紫龍に、天ぷら屋の親父が力強く頷き返す。 「いや、おまえの努力が実ったのだ。この天ぷらはおまえの友情の証だ」 「店主……!」 ――とまあ、感動的なシーンはさておいて。 かくして、北九州は小倉の天ぷら屋“竹壺”店主直伝のアイスクリーム天ぷらは、見事に紫龍の聖衣ボックスに収まったのだった。 |