第二の宮は金牛宮。 対するはタウラスのアルデバラン、である。 鷹揚にして豪放磊落――つまりは、短絡・単細胞が売りのこの男は、最初から氷河の敵ではなかった。 システムキッチンの前に立ち、メニューを考えている振りをしていた氷河は、やにわに振り返ると、大ジョッキに注いだ生ビールをアルデバランに差し出した。 「アルデバラン、とりあえずビールでも飲んで待っていてくれるか」 「おお、気がきくな」 鷹揚にして豪放磊落男が、機嫌良さそうにジョッキを受け取り、700ミリリットルはあろうかという量のビールを一気に飲み干す。 そして、彼はそういう時のお決まりのセリフを口にした。 すなわち、 「かーっ、美味い!」 ――である。 当然、氷河は、そのセリフを聞くなり、すたすたと次なる宮に向かって歩き出したのである。 「おい、キグナス、どこへ――」 自分の口にした言葉に気付いていないアルデバランが、慌てて氷河を引き止める。 氷河は、大先輩たる黄金聖闘士に向かって、実に冷淡に言い放った。 「貴様、美味いと言ったろう、今」 「へ……?」 この段になってやっと、アルデバランは己れの失言に気付いたのである。 自らの黄金聖闘士らしからぬ失態に、彼は、かっと顔全体に血をのぼらせた。 「う…。し…しかし、条件は手料理ということになっていたはずだぞ!」 「俺はそのジョッキに一つまみ塩を入れた。その塩加減が良かったんだな。俺は天才料理人なのかもしれん」 「ううう……」 所詮、単純明快・直情径行の江戸っ子が(?)、ひねて曲がって360度の氷河に太刀打ちできるわけがない。 「豪放磊落で潔く、小さなことにこだわらない男の中の男が売りなんだろう、貴様は」 「…………」 この素直で気のいい黄金聖闘士に、氷河の皮肉が皮肉として伝わっていたのかどうかも怪しいものである。 いずれにしても。 彼の熟考時間はわずか3分。 ムウとは比較にならない潔さ(?)だった。 「よ…よかろう。先に進め」 「うむ」 氷河は決して彼が嫌いなわけではない。 なので、金牛宮を出る時には、氷河はアルデバランの剛腹にいっそすがすがしさを感じていたのだった。 |