そして、第三の宮、双児宮。
本来ならば、ジェミニのサガが守護する宮である。

が。

「ここは誰もいないはずだな」

はっきり言って、氷河は、この宮にはあまり良い思い出がない。
こんなところはさっさと通り抜けようとした氷河は、しかし、突然、双児宮名物のアナザーディメンションをかっくらってしまったのである。
否、それはむしろ、アナザープレイスとでもいうべきものだったかもしれない。

氷河の前に、ここではない、違う場所の幻影がふいに映し出されたのだ。


瞬が(瞬は、幸いなことにちゃんと服を着ていた)、教皇の間で、ひどく悲しそうな顔をしている様が。

「瞬…!」

愛しの瞬の悲しげな様子を見せられて、氷河の気が逸る。
急がなければならない。
瞬はおそらく、最愛の恋人と引き離された不安で押し潰されそうになっているのだ。
そうに決まっている。
それ以外考えられない。



氷河は、愛しの瞬の姿を瞼に焼き付け、お約束通りに目をつぶって、無人の双児宮を通り抜けた。







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