さて、第7宮は、天秤宮。
ライブラの童虎、別名、廬山五老峰の老師の守護する宮である。

氷河は、12の宮のうち6つまでの料理(?)決戦を終え、そろそろこの勝負に勝つコツが飲み込めてきていた。

「ふぉっふぉっふぉっ。ワシは中国四千年の――」
「わかっている。しかし、これは食ったことがあるまい」
余計なご託宣を聞いている時間も惜しい。
氷河は、老師の言葉をすっぱりと遮って、“それ”を老師の前に差し出した。

「こ…これは何なんなんなんじゃ?」

『これは何なんなんなんじゃ?』と問われれば、レンジで解凍する前の“サトウのご飯”に、手近な雑草を乗せ、お湯をかけたものだとしか説明のしようがない。
しかしながら、氷河は、当然そんな事実など告げはしなかった。

「これは日本では七草粥という。一年の健康を祈願して正月に食べるものだ。老師にはいつまでも健康でいてほしいからな。さあ、食ってみろ」

(食えるものならな)

「………………」

老師の修行地中国は、悪食の国である。足のあるものはテーブル以外なら何でも食べ、そのテーブルとて、金属製でなければ立派に料理にしてしまうお国柄なのだ。
しかし、それは、調理することによって美味いものに変身したものに限られる――ということは言うまでもない。

老師は迷っていた。
食べなければ判定できない。
だが、おそらく食べれば、その先に待つものは死だけである。
既に何百年という長い月日を生きてきた老師は、しかし、だからこそ、自分の命が惜しかった。

故に、彼が、氷河の作った料理に箸もつけず、
「おお、紫龍にも勝る敬老精神! 食せぬでも、このごった煮が、あ、いや、粥が美味いことはわかるぞ、ワシには」
と言ったのは、実に賢明な判断だったろう。

「さすが老師。できる男は違う」
氷河も、老師の言葉を聞いて、満足げに頷いた。
それは、『アイオリアに比べたら、この世に“できない男”はいない』という程度の褒め言葉だったのだが、老師は未来ある若者に褒められてご満悦の体だった。







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